介護福祉

【居宅支援】居宅介護支援事業の現状と今後の展望、経営の基本と注意点

居宅介護支援事業は、高齢化社会の進展に伴い、年々その重要性が増している分野です。しかしながら、現在この分野は深刻な構造的課題に直面しています。

2024年の最新統計によると、居宅介護支援事業所の数は6年連続で減少しており、2023年度には3万6,459件となり、前年から約2%の減少が見られました。
この減少の主な要因は、深刻な人材不足、特に主任ケアマネジャーの確保が難しくなっている点にあります。

一方で、介護保険の総費用は2021年度に11兆円台を記録し、4年連続で増加しています。このように、需要と供給の間に明確なギャップが生じています。

事業所数が減っているにもかかわらず、利用者数は増加し続けており、それに伴い、現場のケアマネジャー1人あたりの担当件数が増えています。その結果、業務負担の深刻化が懸念される状況です。

事業所数減少の実態と背景要因

継続的な事業所数の減少トレンド

居宅介護支援事業所の減少は、長期的かつ継続的な傾向として確認されています。
厚生労働省が公表した最新の統計によると、2024年4月時点における居宅介護支援の請求事業所数は3万6,459件となっており、前年同期と比較して738件(約2%)減少しています。

この減少傾向は、2018年のピーク時から続いており、累計では3,606件の減少となっています。
つまり、事業所数の減少は単年度での一時的な変動ではなく、6年連続で少しずつ減り続ける長期的な流れとなっています。

このような継続的な減少は、業界全体に構造的な問題があることを示しており、単なる市場の調整を超えた深刻な課題が存在していることを物語っています。

人材不足の深刻化

事業所の減少の背景には、ケアマネジャーの人材不足が大きく影響しています。日本介護支援専門員協会が2024年4月に公表した調査結果によると、「ケアマネの採用が以前より難しくなったか」という質問に対して、78.3%が「困難になっている」と回答しています。この結果からも、業界全体で人材確保が非常に難しくなっている実情が明らかになっています。

特に深刻なのが主任ケアマネジャーの確保です。同じ調査では、主任ケアマネの採用について68.1%が「困難になっている」と答えており、事業所運営に不可欠な中核人材の確保が極めて難しい状況にあることが示されています。

さらに、多くのケアマネジャーが高齢化により現場を離れている中、後継となる人材の育成が追いついておらず、これが人材不足に拍車をかけている大きな要因となっています。

需給ギャップの拡大と市場環境の変化

居宅介護支援事業における需給ギャップは、年々拡大しています。事業所数が減少する一方で、居宅介護支援の利用者数や給付費は増加傾向にあり、在宅介護サービスに対する需要は高まり続けています。

介護保険の総費用は2021年度に前年度比2.3%増の11兆291億円となり、前年度から2,508億円の増加を記録しました。これにより、4年連続で11兆円台を維持しており、制度全体としての財政規模も拡大しています。

また、要介護認定者数の増加も需要拡大の背景となっています。2022年9月時点では、要介護(要支援)認定者数は697万人に達しており、2000年の218万人から約20年で3倍以上に増加しています。このような急速な需要の増加に対し、供給体制が追いついていない状況が顕在化しています。

現場負担の深刻化

需給ギャップの拡大は、現場で働くケアマネジャーの業務負担の増加というかたちで直接的に表れています。事業所数が減少している中で、居宅介護支援の利用者数は増加し続けており、その結果、1人のケアマネジャーが担当する件数も増えています。

これにより、現場では限られた人員で多くの利用者を支援しなければならず、心身ともに大きな負担がかかっている状況です。業務量の増加は、サービスの質の低下や、ケアマネジャー自身の離職率の上昇といった悪循環を引き起こす可能性があり、業界全体の持続可能性にも大きな影響を与えかねません。

このような中で、適切な人員配置と業務負荷の管理が、今後の事業継続における重要な課題となっています。

政策対応と制度改革の動向

深刻な人材不足を受けて、厚生労働省では制度面での対応策を進めています。2023年12月には、2024年度以降の制度改正として、地域包括支援センターに配置されるケアマネジャーの要件を見直す方針が示されました。

これまで、地域包括支援センターには主任ケアマネジャー、もしくはそれに「準ずる者」を配置することが必要とされていましたが、2024年度からはこの「準ずる者」の範囲が拡大される予定です。具体的には、主任ケアマネジャーを目指す意思があり、かつ5年以上の実務経験を有するケアマネジャーであれば、特定の研修を受けていない場合でも地域包括支援センターに配置できるようになります。

こうした制度の見直しにより、人材不足の緩和が期待される一方で、現場への実際の影響や、支援の質をどう確保していくかが今後の課題となります。

業界団体からの提言と課題

日本介護支援専門員協会では、ケアマネジャーの人材確保に向けた具体的な対策として、処遇の改善が必要であると提言しています。ケアマネジャーの業務には専門性と責任が伴うにもかかわらず、現在の賃金水準はそれに見合っていないとされており、「少なくとも民間企業の平均年収と同等以上の収入が確保されるべき」と主張しています。

また、ケアマネジャーの負担を軽減するため、業務の範囲や責任の明確化、ならびに更新研修などの制度負担の見直しも求められています。こうした提言は、単なる制度改正にとどまらず、業界全体の抜本的な改革が必要であることを示唆しています。

今後の展望と構造変化

2025年問題とその後の市場環境

2025年には、いわゆる「団塊の世代」がすべて75歳以上となり、後期高齢者の人口は2,180万人に達すると推計されています。こうした人口構造の変化により、今後も介護業界はさらなる拡大が見込まれており、居宅介護支援事業に対する需要も一層高まると考えられます。

一方で、生産年齢人口は年々減少を続けており、2025年以降はその減少傾向が加速することが予想されています。政府では、2040年頃を見据えた社会保障制度の見直しに着手しており、介護報酬についても「適正化(見直し)」を基本方針として、今後も効率的な制度運営が求められていく見通しです。

業界再編とM&A活発化

介護業界では、人口構造の変化や行政の動向、現場における人材不足といった課題に対応するため、M&A(合併・買収)が活発になっています。これは、規模の経済性を追求した事業統合や、人的リソースの補完を目的とした戦略的な買収が進んでいることを意味しています。

居宅介護支援事業においても、こうした動きは顕著であり、今後さらに広がっていくと予想されます。事業所の中規模化・大規模化が進む一方で、小規模な事業所は経営の継続が難しくなり、結果として大手事業者への集約が進む可能性が高まっています。

この流れは、業界全体の効率化に寄与する一方で、地域に根ざしたサービスをどのように維持していくかという新たな課題も生じさせています。

経営戦略と運営上の重要ポイント

人材確保と定着戦略

居宅介護支援事業の経営において、最も重要な課題の一つが人材の確保です。日本介護支援専門員協会の調査では、78.3%の事業者がケアマネジャーの採用が困難であると回答しており、優秀な人材の確保は喫緊の課題となっています。

そのためには、業界団体が提言するように、少なくとも民間企業の平均年収と同等以上の待遇を用意することが必要です。特に、主任ケアマネジャーの確保が難しい現状を踏まえると、既存職員のキャリアアップを支援する体制づくりが重要になります。

研修制度の充実を図るとともに、職員が専門性を高められる環境を整えることが求められます。将来的な主任ケアマネ候補の育成を並行して進めることで、継続的な人材確保にもつながります。また、働きやすい職場環境の整備や業務負荷の適切な管理を通じて、職員の定着率を高めることも大切な戦略です。

事業規模最適化と効率化

居宅介護支援事業所の数が減少し、かつ中規模化・大規模化が進む中で、各事業所にとって適切な事業規模の見極めが重要となっています。現在は1人あたりのケアマネジャーが担当する件数が増加しており、無理な受け入れを行うと職員の負担がさらに増し、サービスの質が低下するおそれがあります。

このような状況に対応するためには、業務の効率化が不可欠です。ケアプラン作成支援システムや利用者情報の一元管理ツールなど、ICTの導入によって業務負担の軽減を図ることができます。これにより、限られた人員でも一定の質を維持した支援が可能となります。

また、他の介護サービス事業者との連携を強化し、地域全体で一体的なサービス提供体制を構築することも、効率的な運営を実現するための有効な方策です。

財務管理と持続可能性の確保

今後も介護報酬の適正化(見直し)が継続される方針である中、居宅介護支援事業の経営には、厳格な財務管理が不可欠となっています。適正な利益率を確保するためには、収益構造の見直しや不要な経費の削減を進める必要があります。

また、人材育成やシステム導入といった必要な投資とのバランスをとりながら、長期的な視点での事業継続性を確保することが求められます。特に人材への投資は、将来的なサービスの質の維持と競争力の強化につながります。

事業所の立地も重要な経営判断のひとつです。需要が見込まれる地域での展開を検討しつつ、地域包括支援センターとの連携可能性や周辺の競合状況も踏まえて、戦略的に展開していくことが必要です。

まとめ

居宅介護支援事業は、事業所数が6年連続で減少するという深刻な課題に直面している一方で、高齢化の進展に伴い、今後も需要の拡大が確実に見込まれる分野です。この需給ギャップは、現場のケアマネジャーの業務負担の増加として顕在化しており、人材不足とあわせて、業界全体の持続可能性に大きな影響を及ぼしています。

政府による制度改革や、業界団体からの提言を通じて、一定の改善に向けた取り組みは進められているものの、抜本的な解決にはなお時間を要する見込みです。2025年には団塊の世代がすべて後期高齢者となり、需要はさらに高まる一方で、生産年齢人口の減少により人材の確保はより困難になると予想されます。

こうした環境の中で、居宅介護支援事業の経営に求められるのは、人材の確保・定着に向けた積極的な投資、事業規模の最適化、業務運営の効率化、そして長期的な視点に立った財務管理です。業界再編の流れが進む中で、競争力のある事業者への集約が進んでいくと見られるため、経営体質の強化と戦略的な事業展開を早期に実行することが、今後の成功に向けた鍵となるでしょう。

箇条書きまとめ

1. 業界全体の状況

  • 高齢化の進展により、居宅介護支援事業の重要性は年々高まっている。
  • 一方で、事業所数は6年連続で減少。2023年度は3万6,459件で前年より約2%減少。
  • 減少の主因は主任ケアマネジャーを中心とした人材不足。
  • 介護保険の総費用は増加傾向(2021年度:11兆円超)、需要と供給に大きなギャップが生じている。

2. 事業所数の長期的な減少傾向

  • 2018年のピークから2024年までに約3,600件の事業所が減少。
  • 単年の変動ではなく、構造的な減少トレンドが続いている。
  • 中規模・大規模化は進行中だが、事業所数全体は今後も減少が見込まれる。

3. ケアマネジャーの人材不足

  • 日本介護支援専門員協会の調査で、78.3%の事業者が採用困難と回答。
  • 特に主任ケアマネの確保が難しく、68.1%が「困難」と回答。
  • 高齢ケアマネの退職と後継者不足が深刻な課題。

4. 需給ギャップの拡大

  • 要介護認定者は2000年の218万人から2022年には697万人に増加。
  • 利用者数や給付費の増加に対し、供給体制の整備が追いついていない。
  • 介護保険総費用は4年連続で11兆円台に達している。

5. ケアマネジャーの現場負担増加

  • 利用者数の増加により、1人あたりの担当件数が増加。
  • 業務量増加はサービス品質の低下や離職の要因にもなり得る。
  • 適切な人員配置と業務管理が求められている。

6. 制度改革の動向

  • 厚生労働省は2024年度より、地域包括支援センターの配置要件を緩和。
  • 主任ケアマネに「準ずる者」の定義を拡大し、実務経験があれば配置可能に。

7. 業界団体の提言

  • 処遇改善の必要性を強調。少なくとも民間平均年収と同等以上を主張。
  • 更新研修や業務負担軽減、業務範囲の明確化なども提言。

8. 2025年問題と市場の将来

  • 団塊世代がすべて後期高齢者となり、需要は一層拡大。
  • 一方で生産年齢人口は減少し、人材確保は今後さらに困難に。
  • 政府は2040年を見据えて社会保障制度の見直しに着手。

9. 業界再編とM&Aの進展

  • 人材・制度対応としてM&Aが活発化。
  • 小規模事業所は淘汰され、中・大規模への集約が進行。
  • 効率化の一方で、地域密着型サービスの維持が課題となる。

10. 経営における重要な視点

  • 処遇改善やキャリア支援による人材確保・育成が重要。
  • ICT導入による業務効率化、他事業者との連携強化。
  • 財務管理の徹底と、需要見込み・競合状況をふまえた立地戦略。
  • 長期的な視野での収益構造の見直しと持続可能性の確保。

11. 結論と今後の対応

  • 需要増加と人材不足による深刻なギャップが続く。
  • 制度改革や業界努力は進むが、抜本的な解決には時間がかかる。
  • 競争力のある事業者への集約が進む中、早期の戦略実行が重要。

さいごに

今回は、居宅介護支援事業の現状と今後の展望について解説しました。高齢化の進行により介護ニーズが拡大する一方で、居宅介護支援事業所の数は6年連続で減少しており、業界全体が深刻な人材不足、特に主任ケアマネジャーの確保困難という構造的な課題に直面しています。また、利用者数の増加に伴うケアマネジャー1人あたりの業務負担増加、財務面での制約、業界再編の加速など、現場と経営の両面で大きな転換点を迎えています。国による制度改革や業界団体からの提言も進められているものの、抜本的な改善には時間を要する見通しです。今後は人材への投資、効率的な運営体制、財務の健全化といった視点が重要となり、変化する市場環境の中で競争力を維持するためには、早期の戦略的対応が求められます。

クロスト税理士法人では、介護福祉事業の開業に関して、初期相談から、事業計画作成、融資サポート、法人設立、指定申請代行、各役所への届け出の提出とまとめてご相談可能となっております。また、初回無料相談可能となっておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。

このコラムを監修した税理士

田代 健太郎

クロスト税理士法人 代表社員

近畿税理士会所属、登録番号126849号
税理士法人3社での勤務を経て、2015年に「田代健太郎税理士事務所」を設立。その後2018年に法人化し「クロスト税理士法人」に。
財務・税務調査の専門家として、決算申告業務、経営支援業務、独立・開業支援業務、医業福祉業の経営支援業務などの業務を提供。
法人に対する支援業務にとどまらず、生命保険・金融資産の検討・見直し、不動産運用に関するコンサルティング、
また相続申告、相続対策など、個人に対しても幅広い各種サービスを提供している。

書籍:「税務調査の良い受け方・正しい対応方法」、「会社経営者であれば知っておきたい節税のイロハ」、「創業計画書つくり方・活かし方」、ゼッタイ得する会社のつくり方はじめ方」、「相続の税金と対策」、「歯科医院経営の成功手法がわかる本」他。

クロスト税理士法人 https://crosst-tax.jp/

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