介護福祉
物価高だけではない。介護経営を最も圧迫する「人件費高騰」の波と、利益を守るための防衛策
「最低賃金が上がり、パートさんの時給を上げざるを得ない」
「近隣のスーパーや物流センターが時給を上げたので、スタッフがそちらに流れている」
昨今のインフレ局面において、介護経営者に最も重くのしかかっているのは、電気代でも食材費でもなく、「人件費の高騰」ではないでしょうか。
一般企業であれば、賃上げの原資を確保するために商品やサービスの価格を「値上げ」することができます。しかし、公定価格である介護報酬は、物価や賃金の上がりに連動してすぐには上がりません。
「入ってくるお金(単価)」は変わらないのに、「払うお金(人件費)」だけが強制的に上がっていく。
この構造的な板挟み状態こそが、現在の介護経営における最大の危機です。
今回は、この「人件費高騰時代」をどう乗り切るか、税理士の視点から解説します。
目次
わずかな賃上げが、利益を大きく削る理由
介護事業は、典型的な「労働集約型産業」です。
売上に対する人件費の割合(人件費率)は一般的に60〜70%と非常に高く、製造業や小売業とはコスト構造が全く異なります。
そのため、人件費の変動が利益に与えるインパクトが桁違いに大きいのです。
例えば、全職員の給与を3%上げたとします。これだけで、利益の大部分が吹き飛んでしまうケースも珍しくありません。
「世間の賃上げムードに合わせてなんとなく上げた」という判断が、数ヶ月後の資金繰りを急激に悪化させる原因になります。
「事務が面倒」で、上位の加算を諦めていませんか?
自社の利益を削らずに賃上げを行う唯一にして最大の手段は、「介護職員等処遇改善加算」を最大限に活用することです。
しかし、現場の経営者様とお話ししていると、非常にもったいないケースに遭遇します。
「計算が複雑すぎて、一番上の区分を取る自信がない」
「キャリアパス要件や職場環境等要件を整備するのが面倒だ」
「変更届や実績報告の手間を考えると、今のままでいい」
このように、事務処理の煩雑さを理由に、本来取れるはずの上位加算(新加算Ⅰなど)を諦め、低い区分のままで止まっている事業所が少なくありません。
しかし、経営的な視点で考えると、これは非常にもったいないことです。
この加算は、国が用意してくれた「正当な賃上げ原資」です。もし近隣の競合施設が上位区分を取得して、その分を給与に上乗せしていたらどうなるでしょうか。
求職者は給与条件をシビアに比較します。「事務手続きの手間」を理由に加算を見送ることは、結果として採用競争において、自社を厳しい立場に追い込んでしまう可能性があるのです。
煩雑な手続きこそ、専門家を頼るべき
確かに、処遇改善加算の計画書作成や実績報告、賃金改善額の計算は非常に複雑で、制度も頻繁に変わります。本業で忙しい経営者様が、これらを完璧にこなそうとするのは無理があります。
だからこそ、外部の専門家を頼ってください。
「事務コスト」と「採用コスト(離職コスト)」を天秤にかければ、答えは明確です。
多少の顧問料や手数料を払ってでも、専門家に依頼して上位加算を取得し、スタッフの給与を上げて定着率を高める方が、結果として会社に残る利益は大きくなります。
「損益分岐点」を引き下げ、ICTで生産性を上げる
加算で単価を上げると同時に、労働時間のコントロールも必要です。
人件費単価(時給・月給)が上がることは避けられません。であれば、ICT活用による「生産性の向上」が不可欠です。
記録業務のICT化、見守りセンサーの導入、請求ソフトの連携など、設備投資を行うことで、「今まで5人で回していた現場を4.5人で回す(残業を減らす)」ような工夫が、実質的な人件費抑制につながります。
まとめ:人件費率のコントロールが生命線
「良い人材を採用・定着させるために給与を上げたい」
その想いは素晴らしいですが、財務の裏付けのない自腹での賃上げは、会社の存続を危うくします。
「今の要件で、もっと上の加算は取れないか?」
「加算を取った場合、いくらまで昇給できるか?」
これらを感覚ではなく、シミュレーション数値として把握することが重要です。
面倒な手続きは私たちにお任せいただき、経営者の皆様は「スタッフが働きやすい環境づくり」に専念してください。
人件費高騰に負けない強い組織を作るために、ぜひ一度ご相談ください。
