介護福祉
「1拠点が満床だから2拠点目も」は危険信号? 介護事業の多店舗展開を成功させる「再現性」の経営戦略
「おかげさまで今の施設は満床で、待機者も出ています。そろそろ2店舗目を考えたいのですが」
経営が軌道に乗ってくると、次の展開を考えるのは経営者として自然なことです。事業拡大は、より多くの利用者様に貢献できるだけでなく、職員に新たなポストを用意できるなど、多くのメリットがあります。
しかし、数多くの介護事業者の顧問をしてきた経験から申し上げますと、この「2店舗目(または3店舗目)への拡大期」が、最も経営リスクが高まるタイミングでもあります。
1店舗目の成功体験だけで突っ走る前に、一度冷静に「経営戦略」の点検をしてみませんか?
目次
「社長がいなくても回るか?」再現性の壁
最初の1拠点がうまくいった最大の要因は何でしょうか。
立地や建物もあるでしょうが、創業期においては「社長自身の圧倒的な熱量と行動力」であることがほとんどです。社長が現場に入り、利用者様と話し、職員を鼓舞する。その「カリスマ性」で回っていた現場は、社長が不在になった途端に崩れることがあります。
多店舗展開の成功条件は「再現性」です。
「あの人がいるからうまくいく」という属人的な状態から、「誰が管理者になっても一定の品質が出せる」という仕組み(マニュアル、評価制度、理念の浸透)に落とし込めているか。
2店舗目を出す前に、まずは1店舗目を「社長なしで回る状態」に仕上げることが、実は最短の近道です。
「広域展開」か「ドミナント」か? 2つの成長戦略
次に重要なのが「どこに、何を出すか」というエリア戦略です。これには大きく2つの考え方があり、自社の強みに合わせて選ぶ必要があります。
1 広域展開(飛び地展開)のメリットとリスク
今の拠点から離れた、別の商圏に出店する戦略です。
最大のメリットは、「1店舗目の成功ノウハウをそのまま使える」ことです。
例えば、「リハビリ特化型デイサービス」で成功している場合、同じ商圏に2つ目を作ると利用者の取り合いになりますが、別の地域なら、全く同じサービス内容・オペレーションで、新たな見込み客を獲得できます。自社の「勝ちパターン」が確立している場合には有効です。
一方で、デメリットは「管理コストの増大」です。
拠点間の移動に時間がかかるため、管理者の巡回が疎かになりやすく、スタッフの急な欠勤時にも応援が出せません。
「売上は倍になったが、移動経費や採用費がかさんで利益率は下がった」という事態になりがちです。
2 ドミナント戦略(地域集中展開)のメリットとリスク
特定の地域に集中して出店する戦略です。
最大のメリットは、「経営資源(ヒト・モノ・カネ)の効率化」です。
自転車圏内に拠点があれば、スタッフのヘルプを出し合うことができ、採用活動や営業活動もエリア単位でまとめて行えます。
また、「訪問介護」の利用者が重度化したら、自社の「老人ホーム」へ誘導するなど、異なるサービスを組み合わせる(垂直展開)ことで、一人の利用者様を長く支えることも可能です。
ただし、全く同じサービスを近隣で作ると、自社競合(カニバリゼーション)を起こすリスクがあるため、サービスの棲み分けが必要です。
「赤字の半年」を支える財務戦略
新しい施設を開設すれば、当然ながら最初は利用者がゼロからのスタートです。
定員が埋まり、単月黒字化するまでの半年〜1年程度は、毎月赤字が垂れ流しになります。さらに、介護報酬の入金は2ヶ月遅れです。
この「持ち出し期間」を支えるのは、1店舗目の利益と、銀行からの融資です。
ここで重要なのは、「1店舗目の利益をすべて2店舗目の赤字補填に回してしまうと、会社全体の手元資金が枯渇する」という点です。
既存店が何かのアクシデントで売上ダウンした瞬間、共倒れになるリスクがあります。
だからこそ、自己資金だけで賄おうとせず、「事業拡大のための投資」として、あらかじめ十分な運転資金を融資で確保しておく「財務戦略」が不可欠です。
まとめ:地図を描いてから航海に出よう
多店舗展開は、会社のステージを一段上げる大きなチャンスです。
しかし、それは「足し算(1+1=2)」ではなく、「掛け算」の経営です。戦略がなければ、マイナスも掛け算で膨らんでしまいます。
「今の財務状況で、あと何店舗まで出せるか?」
「自社の強みは、広域展開向きか、ドミナント向きか?」
当事務所では、税務申告だけでなく、事業計画の策定や融資サポートを通じて、経営者の皆様の「攻めの戦略」をバックアップしています。ぜひ一度、当事務所にご相談ください。
