介護福祉
【放デイ】児童発達支援事業と放課後等デイサービス事業の現状と今後の展望、経営の基本と注意点
障害児支援サービスに対する社会的ニーズは年々高まっており、なかでも「児童発達支援事業」および「放課後等デイサービス事業」は、福祉分野における重要な位置を占めています。本稿では、特に放課後等デイサービスに関する最新データをもとに、両事業の現状分析と今後の展望、加えて経営における基本事項や留意点について詳しく解説いたします。利用者数および事業所数の急増、そして2024年に予定されている2類型化の制度改正など、事業者が把握すべき重要な動向をまとめています。
目次
障害児支援サービスの現状
放課後等デイサービスの市場拡大
放課後等デイサービスは、ここ数年で著しい成長を遂げている分野です。厚生労働省の「障害児通所支援の在り方に関する検討会」の資料によれば、平成24年以降、利用者数は右肩上がりに増加し、令和元年には約4倍にまで拡大しています。これは、障がいを持つ子どもの数そのものが増加傾向にあることを示唆するものです。
事業所数においても同様の傾向が見られ、令和元年には14,000か所を超え、平成24年と比較して約7倍に達しています。また、令和元年度時点での利用者数は226,610人、事業所数は14,046か所とされており、平成29年度(170,844人・11,288か所)からの顕著な増加が確認されています。
さらに、給付費の総額も年々増加しており、利用者数・事業所数・費用額の全てにおいて放課後等デイサービスの市場が健全に拡大していることが読み取れます。
利用者ニーズの多様化
放課後等デイサービスの利用実態を年齢別に見ると、保護者のニーズが年齢とともに多様化していることがわかります。厚生労働省の調査によれば、「長時間の預かり」を希望する割合は年齢が上がるにつれて増加し、7〜9歳では26.5%、10〜12歳では30.0%、13歳以上では34.1%という結果が出ています。
この傾向は、保護者の就労状況や子どもの障がいの程度が影響していると考えられます。特に、障がいの特性によっては年齢を重ねても自宅での留守番が難しいケースが多く、安心して過ごせる支援の場を必要としている保護者が増えている状況です。
将来展望と法制度の変化
需要増加の継続見通し
文部科学省の「日本の特別支援教育の状況について」によると、特別支援学校の在籍者数は平成20年度の112,334人から平成30年度には143,379人へと大幅に増加しています。
このことから、支援が必要な子どもの数が着実に増えており、放課後等デイサービスや児童発達支援のニーズが今後さらに高まることが見込まれます。
また、以下のような社会的背景も、サービスの需要を後押ししています:
- 発達障がいの診断件数の増加
- 女性の就業率上昇
- 共働き世帯の増加
これらを総合すると、障害児通所支援サービス全体が、引き続き成長産業であることが示唆されます。
2024年の法改正と2類型化
2024年度には、放課後等デイサービスに関する制度改正が予定されており、事業類型が「総合支援型」と「特定プログラム特化型」の2種類に再編されます。
- 総合支援型:
厚生労働省が策定したガイドラインに基づき、以下の4つの基本的な活動をバランス良く提供する形態です。- 自立支援・日常生活充実の活動
- 創作活動
- 地域交流の機会
- 余暇の提供
- 特定プログラム特化型:
現時点で詳細は明確ではありませんが、運動療育や学習支援、特定技能育成など、特定のテーマに特化したサービス提供が想定されています。
経営上の基本と注意点
適切な支援内容の確保
放課後等デイサービスの中には、「安全な預かり」のみに特化し、ゲームやDVD視聴、おやつの提供などを中心とした“居場所型”の支援に偏る事業所が少なくありません。また、学習塾のように勉強支援ばかりに偏った事業所、特定の習い事(プログラミング・音楽・スポーツ等)だけに特化した事業所もあります。
こうした内容は、放課後等デイサービスの本来の目的である「障がいのある児童の発達支援」という観点からは、目的逸脱と見なされるリスクもあります。
事業運営においては以下の点が重要です:
- 支援内容がガイドラインに準拠しているかを確認する
- 利用児童の特性に応じて、総合的な活動内容を設計する
- 一過性の流行や事業者都合で支援内容が左右されないようにする
利用者の年齢と特性に応じた支援設計
放課後等デイサービスは原則6~18歳の就学児を対象としており、高校進学をしなかった場合や、18歳を超えた場合は利用ができなくなることがあります。
この制度的な制限に対し、事業者としては以下の視点が求められます:
- 児童発達支援・生活介護など他サービスとの連携体制を整備する
- 切れ目ない支援を意識した個別支援計画を立案する
- 保護者への制度説明・情報提供も丁寧に行う
将来的には、対象年齢や制度の在り方そのものが見直される可能性もあるため、制度改正への対応力も必要です。
成功するための戦略的アプローチ
1. 差別化と質の高いサービス提供
放課後等デイサービスの事業所数は増加傾向にあり、地域によっては競争が激化しています。その中で「選ばれる事業所」になるためには、明確な差別化と支援の質の向上が必要不可欠です。
具体的な取り組み例:
- 学習支援やSST(ソーシャルスキルトレーニング)を軸とした特色ある支援の導入
- スタッフの専門性強化(保育士・児童指導員等の継続研修や外部研修受講)
- 利用者・保護者の声を取り入れたサービス設計(定期的なアンケートや面談の実施)
これらにより、保護者からの信頼を獲得し、口コミによる利用者増加につなげることができます。
2. 人材確保と育成
障害児支援事業の成否は「人材の質と安定性」に大きく左右されます。特に放課後等デイサービスでは、以下の課題が多く報告されています:
- 離職率の高さ
- 時間帯による人手不足(特に午後〜夕方)
- 指導員の経験・スキルの偏り
対策として有効なアプローチ:
- 働きやすいシフト体制と職場環境の整備
- キャリアパスの構築(例:リーダー職、研修担当など)
- ICTツールの活用による業務の効率化(記録・報告の省力化等)
- 内部研修・OJTによるスタッフの育成体制強化
また、保育や教育分野以外からの転職者にも門戸を広げ、段階的なスキルアップ支援を行うことで、採用の間口を広げる工夫も有効です。
まとめ
児童発達支援事業と放課後等デイサービス事業は、障がいのある子どもたちとその家族の生活を支える、極めて重要な社会的インフラです。特に近年では、利用者数や事業所数の急増、保護者ニーズの多様化、法制度の変更など、支援を取り巻く環境が大きく変化しています。
これらの変化に対応し、事業を持続的に成長させていくためには、以下のポイントが不可欠です。
- 制度改正や行政動向に常に目を配り、柔軟に対応できる体制を整えること
- 児童の年齢や障がい特性に応じた、質の高い支援プログラムを提供すること
- 人材の確保と育成に注力し、安定したサービス提供体制を築くこと
- 他事業所との差別化を図り、保護者や関係機関から選ばれる事業所となること
障害児支援は単なる預かりや学習支援ではなく、「子どもたちの将来の可能性を広げる」ことが本質的な目的です。その理念を忘れず、誠実で継続的なサービス提供に努めることが、地域社会から必要とされる事業所づくりにつながります。
【要約】
- 放課後等デイサービスの急成長
- 利用者数・事業所数ともに令和1年時点で平成24年比数倍に拡大。
- 市場の成長は今後も継続が見込まれる。
- 保護者ニーズの多様化
- 年齢が上がるほど長時間預かりの希望が増加。
- 就労家庭・重度障がい児家庭での需要が特に高い。
- 2024年法改正の影響
- 「総合支援型」と「特定プログラム特化型」の2類型に分類へ。
- 支援の質を確保し、不適切な事業所を排除する目的。
- 経営上の注意点
- 支援内容に偏りのある事業所が存在(学習塾型・習い事型など)。
- サービスの本来の目的を逸脱しない体制構築が必要。
- 利用者の年齢と制度の壁
- 高校未進学者は対象外になる場合があり、支援の継続に課題。
- 柔軟なサービス設計と制度動向への対応が求められる。
- 競争激化と差別化の必要性
- 他事業所との差別化(専門支援、学習支援など)で選ばれる施設に。
- 利用者・保護者のニーズに応える柔軟な姿勢が鍵。
- 人材不足と対策
- 離職率の高さと指導員の確保難が大きな課題。
- 職場環境の整備・研修体制の強化・ICT活用で対応を図る。
さいごに
児童発達支援・放課後等デイサービスは、障がい児支援の重要な役割を担う事業として拡大を続けています。利用者・事業所数は近年急増し、保護者ニーズも多様化。2024年には「総合支援型」「特定プログラム特化型」の2類型へ法改正予定で、支援の質が問われます。一方で、競争激化や人材確保の難しさ、制度上の制約といった経営課題も存在。選ばれる事業所となるためには、適切な支援体制と柔軟な経営戦略が求められます。
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