介護福祉

【デイサービス】デイサービス事業の現状と今後の展望、経営の基本と注意点

高齢化社会の進行に伴い、デイサービス事業は急速な成長を遂げている一方で、人材不足や競争の激化といった深刻な課題にも直面しています。2018年度におけるデイサービスの総費用額は約1兆6,457億円に達し、過去最高を記録しました。2021年には通所介護単体の市場規模が1兆2,799億4,300万円に上り、介護サービス業界の中で3番目の規模を誇っています。

しかしながら、事業者の約66%が人材不足を実感しており、施設数の増加に伴う競争の激化も進んでいます。今後、デイサービス事業の持続的な成長を実現するためには、質の高いサービス提供と効率的な経営戦略の両立が不可欠です。

デイサービス事業の現状と市場動向

市場規模の拡大と成長トレンド

デイサービス事業は、日本の介護サービス業界において重要な役割を担っています。厚生労働省の「介護給付費等実態統計(令和3年度)」によれば、2021年のデイサービスを含む介護サービス全体の市場規模は10兆7,494億400万円に達し、前年の10兆5,078億2,900万円から拡大を続けています。なかでも通所介護(デイサービス)単体では、1兆2,799億4,300万円の規模を誇り、介護福祉施設サービス(2兆79億1,900万円)、介護保健施設サービス(1兆3,484億4,900万円)に次いで、業界内で第3位の規模となっています。

このような成長の背景には、高齢者人口の増加が挙げられます。2018年度におけるデイサービス利用者数は220万1,300人で、前年度から1.5%(3万3,100人)の増加となっています。また、介護保険サービス開始初年度の2001年度と比べると、総費用額は約4.3倍に増加しており、高齢化の進展とともにニーズが大幅に拡大してきたことがうかがえます。

利用者動向と在宅志向の高まり

デイサービスの需要増加には、在宅での介護や看取りを希望する高齢者の増加も影響しています。2012年に内閣府が実施した「高齢社会白書」の調査では、「最期を迎えたい場所」として「自宅」と回答した高齢者が54.6%にのぼり、「医療機関」(27.7%)や「特養などの福祉施設」(4.5%)を大きく上回る結果となりました。

また、「介護を受けたい場所」としても、男性の50.7%、女性の35.1%が「自宅で介護してほしい」と回答しており、在宅志向の高まりが見て取れます。デイサービスは、こうしたニーズに対応する日帰り型の通所介護サービスであり、介護者の負担軽減や利用者の生活の質向上を目的としています。

加えて、通所により外出機会が得られ、他者と交流することで、閉じこもりや社会的孤立の防止にも寄与するなど、デイサービスは多面的に高齢者を支える重要な役割を果たしています。

事業運営における課題と挑戦

深刻化する人材不足問題

デイサービス事業における最大の課題の一つが、人材の確保と定着です。介護労働安定センターの「令和4年度 介護労働実態調査結果」によると、介護サービス事業者の約66%が人材不足を実感していると回答しています。その背景には、他業種と比較して労働条件が厳しく、離職率が高いという実態があります。

とりわけデイサービスにおいては、利用者一人ひとりの状況に応じた適切な支援が求められるため、専門知識と実務経験を持つ人材の確保が不可欠です。人材不足は単なる人数の問題にとどまらず、サービスの質の維持や安全な運営にも直結するため、労働環境の整備や待遇改善など、抜本的な対策が求められています。

競争激化による経営環境の変化

市場の拡大に伴い、新規参入事業者が増加していることから、地域内での競争が激化しています。同一エリアに複数のデイサービス事業所が存在する場合、料金、サービス内容、施設の設備などの面で差別化が求められるようになっています。

このような状況下では、価格競争が加速するリスクもあり、結果として人件費の圧縮やサービスの質の低下につながる可能性も否めません。競争に打ち勝つためには、単なる価格面での対応ではなく、利用者満足度を高める工夫や、地域に密着した独自サービスの開発が重要です。

また、地域のニーズに応じた柔軟なサービス設計や、他の介護事業者・医療機関との連携を強化することで、事業の安定性と差別化の両立を図ることが求められます。

今後の展望と市場予測

高齢化の更なる進展による需要拡大

今後もデイサービス事業の需要は着実に拡大していくと見込まれています。総務省統計局の「高齢者の人口」によれば、2022年時点で65歳以上の高齢者は総人口の29.1%を占めており、2040年には35.3%まで上昇する見通しです。この高齢者人口の増加は、介護を必要とする人の増加に直結しており、デイサービスの役割はますます重要になっていくと考えられます。

厚生労働省の統計によると、2021年に介護予防または介護サービスを一度でも利用した人の数は638万1,700人にのぼり、前年から2.6%の増加を記録しています。こうした傾向が続くことを踏まえると、デイサービス市場は今後も安定的に成長を続けると予測されます。

サービスの多様化と質の向上

デイサービス事業においては、従来の入浴・食事・機能訓練といった基本的な介護サービスに加え、今後はより個別性を重視した多様なプログラムの提供が求められるようになります。現在でも生け花や書道、体操など様々な活動が行われていますが、今後は利用者一人ひとりの趣味や健康状態に応じたプログラムの充実が求められるようになるでしょう。

また、社会的孤立の防止という観点からも、地域住民やボランティアとの連携を深めたプログラムの導入や、世代間交流など地域とつながる取り組みの強化が期待されています。こうしたサービスの多様化と質の向上は、利用者の満足度向上とともに、事業所の差別化にも大きく寄与する要素となります。

経営の基本と注意点

財務管理と収益性確保

デイサービス事業の運営においては、安定した経営を維持するための財務管理が不可欠です。介護報酬に基づく収益構造を正しく理解し、利用者数の変動や介護度の変化といった外部要因に柔軟に対応できる体制づくりが求められます。とりわけ、大規模型デイサービスでは報酬単価が引き下げられていることから、コスト管理の徹底と効率的な運営体制の構築が重要な課題となります。

人件費はデイサービス運営における最大の支出項目であるため、適切な人員配置とともに生産性の向上が求められます。人材不足が続く中では、既存スタッフの多能工化や業務効率化によって、限られた人員で質の高いサービスを提供できる体制づくりが必要です。設備投資についても、利用者の安全と快適性を確保しつつ、過剰な支出を抑えた計画的な投資判断が求められます。

人材育成と組織運営

人材の確保・育成・定着は、デイサービス事業の成否を左右する最重要課題です。採用にあたっては、単に資格を保有する人材を集めるだけでなく、事業所の理念や価値観に共感し、長期的に活躍できる人材を見極める視点が求められます。

育成面では、継続的な研修制度の整備やキャリアパスの明確化を通じて、スタッフのスキル向上とモチベーション維持を図ることが重要です。加えて、柔軟なシフト制度や適切な福利厚生の導入、職場内のコミュニケーション活性化といった働きやすい職場環境の整備により、職員の定着率向上が期待されます。

また、チームワークを重視した組織運営により、サービスの質を高め、職場の一体感を醸成することができ、利用者へのより良い支援にもつながります。

法令遵守とリスク管理

デイサービス事業は、介護保険法をはじめとする多くの法令や制度に基づいて運営されているため、厳格なコンプライアンス体制の構築が不可欠です。指定基準の遵守、介護報酬の適正請求、記録の正確な管理など、日常業務の中での法令順守を徹底することが、事業の信頼性維持につながります。

加えて、利用者の個人情報保護や事故防止、感染症対策などに関する適切な管理体制の整備も求められます。万が一の事態に備えて、緊急時対応マニュアルの整備、スタッフへの定期的な研修の実施、地域の関係機関との連携強化など、包括的なリスクマネジメントが事業継続の鍵となります。

まとめ

デイサービス事業は、高齢化社会の進行に伴い、今後も安定した需要が見込まれる有望な事業分野です。市場規模の拡大や利用者数の増加が続く一方で、人材不足や競争激化といった経営上の課題にも直面しており、持続可能な運営を実現するには多角的な対応が求められます。

経営者にとっては、質の高いサービスの提供と効率的な運営体制の構築という両立が極めて重要です。中でも、人材の確保・育成・定着は、安定的なサービス提供の基盤となる要素であり、継続的な研修や働きやすい環境整備が不可欠です。

また、財務管理や法令遵守、リスクマネジメントの徹底といった経営の基本を確実に実践することで、経営の安定性と信頼性を高めることが可能です。加えて、地域ニーズに根ざしたサービスの展開や他事業者との連携強化を通じて、事業の差別化と付加価値の向上を図ることが今後の成長につながります。

今後のデイサービス事業は、単なる介護の提供にとどまらず、高齢者の生活の質向上や地域社会への貢献といった、より広い役割を担う存在として発展していくことが期待されます。

  • 市場規模拡大:デイサービスは介護サービス業界で3番目の規模を誇り、今後も高齢化により成長が見込まれる。
  • 在宅志向の高まり:高齢者の多くが自宅での介護や看取りを希望しており、デイサービスの役割が重要に。
  • 人材不足が深刻:約66%の事業者が人手不足を実感。採用・定着・育成が経営の最重要課題。
  • 競争激化:新規参入が増え、地域内での差別化やサービス品質が生き残りのカギに。
  • 財務管理の重要性:収益確保には人件費管理や適正な投資が不可欠。介護報酬の動向にも注意。
  • サービスの多様化が必要:利用者ニーズに合わせたプログラムや地域連携により、他社との差別化を図る。
  • 法令遵守とリスク管理:介護報酬請求や個人情報保護、緊急対応など法令・制度面の対応も事業継続には必須。
  • 地域社会への貢献:今後は介護だけでなく、地域福祉の担い手としての役割も期待されている。

さいごに

今回は、デイサービス事業の現状と今後の展望、経営上の基本ポイントと課題について解説しました。

デイサービス事業は高齢化の進展により市場が拡大し続けている一方で、人材不足や競争激化といった深刻な課題に直面しています。今後の事業運営には、サービスの質と効率的な経営の両立が不可欠です。人材の確保・育成、財務管理、法令遵守を徹底し、地域ニーズに応じた柔軟なサービス展開が求められます。持続可能な成長を実現するには、利用者満足度の向上と他事業者との連携による差別化が鍵となります。

クロスト税理士法人では、介護福祉事業の開業に関して、初期相談から、事業計画作成、融資サポート、法人設立、指定申請代行、各役所への届け出の提出とまとめてご相談可能となっております。また、初回無料相談可能となっておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。

このコラムを監修した税理士

田代 健太郎

クロスト税理士法人 代表社員

近畿税理士会所属、登録番号126849号
税理士法人3社での勤務を経て、2015年に「田代健太郎税理士事務所」を設立。その後2018年に法人化し「クロスト税理士法人」に。
財務・税務調査の専門家として、決算申告業務、経営支援業務、独立・開業支援業務、医業福祉業の経営支援業務などの業務を提供。
法人に対する支援業務にとどまらず、生命保険・金融資産の検討・見直し、不動産運用に関するコンサルティング、
また相続申告、相続対策など、個人に対しても幅広い各種サービスを提供している。

書籍:「税務調査の良い受け方・正しい対応方法」、「会社経営者であれば知っておきたい節税のイロハ」、「創業計画書つくり方・活かし方」、ゼッタイ得する会社のつくり方はじめ方」、「相続の税金と対策」、「歯科医院経営の成功手法がわかる本」他。

クロスト税理士法人 https://crosst-tax.jp/

コラム一覧に戻る

2022年度融資実績最高3,000万円超

\ 開業予定の介護・障害福祉事業者様へ /

無料相談実施

無料
相談

即日対応可!

06-6251-1350

受付時間 平日9時00分~17時00分

電話でのご相談06-6251-1350

初回無料相談