介護福祉
「利益は出ているのにお金がない?」介護事業特有のキャッシュフローの罠と対策
「毎月の試算表を見ると利益はしっかり出ている。なのに、通帳の残高はなぜか毎月ギリギリで、給与支払日の前日は眠れない……」
もし、あなたがそのような不安を感じているなら、一度立ち止まって「お金の流れ」を見直す必要があります。
これは経営の手腕が悪いのではなく、介護・福祉事業というビジネスモデル特有の「構造的な罠」にはまっている可能性が高いからです。
今回は、介護福祉業界に特化した税理士事務所の視点から、多くの経営者を悩ませる「資金繰り」の正体と、その対策について解説します。
目次
介護事業特有の「2ヶ月遅れの落とし穴」とは?
一般的な飲食店や小売業であれば、サービスを提供したその場で現金が入るか、クレジットカードでも数週間後には入金されます。しかし、介護事業は違います。
皆様ご存知の通り、売上の大部分を占める国保連(国民健康保険団体連合会)からの給付費が入金されるのは、サービス提供月の「翌々月末」です。(障害福祉サービス費や地域生活支援事業費など、入金日が異なる場合もあります。)
【サービス提供から入金まで(例)】
4月:サービス提供(スタッフへの給与支払い発生、経費発生)
5月:国保連へ請求(まだ入金なし)
6月:ようやく4月分の売上が入金
この「2ヶ月間の入金の遅れ」が、経営を圧迫します。
つまり、常に「先行して2ヶ月分の経費を立て替え続けられる現金」が手元にないと、事業は回らない仕組みになっているのです。
最も危険なのは「利用者が急増している時」
「新規の利用者様が一気に増えた! 経営が軌道に乗ってきた!」
そんな時こそ、実は最も警戒が必要です。これを私たちは「成長期の資金ショート」と呼んでいます。
なぜなら、利用者が増えれば、対応するためのスタッフ増員(人件費アップ)や、消耗品・食材費の増加など、「出ていくお金」は今すぐ増えるからです。
一方で、増えた利用者様の分の「入ってくるお金」が増えるのは2ヶ月後。
このタイムラグにより、帳簿上は売上が伸びて黒字に見えるのに、手元の現金が枯渇してしまい、最悪の場合は「黒字倒産」に至るケースも少なくありません。
介護特化税理士が教える「3つの防衛策」
では、どのように対策すればよいのでしょうか。ドンブリ勘定を脱却し、強固な財務体質を作るためのポイントを3つご紹介します。
1. 現預金は「月商の3ヶ月分」を死守する
介護事業の安全圏は、一般的に「月商の2.5〜3ヶ月分の現預金」と言われています。
もし現在、手元資金が1ヶ月分程度しかない場合は、非常に危険な状態です。
「借金は悪」と考えず、万が一のために日本政策金融公庫や銀行からの融資を受け、手元の現金を厚くしておくことが、利用者様とスタッフを守ることにつながります。
2. 「ファクタリング」はメリットとリスクを理解して使う
資金調達の手法として、請求済みの介護報酬債権を早期に現金化する「ファクタリング」があります。
最大のメリットは、申し込みから入金までのスピードが非常に速いことです。急な出費や、融資が間に合わない時のつなぎ資金としては大変有効な手段と言えます。
一方で、銀行融資に比べて手数料が割高になる傾向があります。あまりに頼りすぎると、利益を圧迫したり、毎月利用しないと資金が回らなくなる「依存状態」に陥るリスクもあります。
「いつまで使うか」「何のために使うか」を明確にし、長期的な資金計画の中で慎重に導入することをおすすめします。
3. 「利益」ではなく「資金」の計画表を作る
試算表(損益計算書)は「利益」を見るためのもので、「お金の有無」は分かりません。
必要なのは、将来の入出金を予測する「資金繰り表」です。
「半年後の賞与支払いの時期に、残高は足りるか?」
「処遇改善加算の一時金支給時期は大丈夫か?」
「消費税の納付時期に現金はあるか?」
これらを先読みできていれば、早めに融資を申し込むなどの手が打てます。
まとめ:経営のアクセルを踏むために、足元の確認を
介護事業は、地域社会に不可欠で、かつ景気変動にも強い素晴らしいビジネスです。
しかし、その継続のためには「想い」だけでなく「キャッシュフロー管理」という土台が必要です。
「自社の適正な運転資金額を知りたい」
「銀行融資を受けたいが、どう説明すればいいか分からない」
「資金繰り表の作り方を教えてほしい」
そのようにお考えの経営者様は、ぜひ一度、介護業界に強い当事務所にご相談ください。
税務申告だけでなく、事業を長く続けるための財務戦略を一緒に考えさせていただきます。
