介護福祉
「会社全体では黒字だからOK」は危険信号。実は「稼ぎ頭の利益」が「不採算部門の赤字」に消えているかもしれません。
「通帳にお金は残っているし、決算書も黒字だから、今の経営で問題ないだろう」
もし経営者様が、毎月の試算表の「一番下の数字(当期純利益)」だけを見て安心されているとしたら、それは少し危険かもしれません。
特に、介護事業において「デイサービスと訪問介護」「A拠点とB拠点」のように、複数のサービスや拠点を運営している場合はなおさらです。
なぜなら、会社全体の数字だけを見ていては、「どの事業が稼いでいて、どの事業が足を引っ張っているか」という本当の健康状態が見えないからです。
今回は、強い介護経営体質を作るために不可欠な「部門別会計」について解説します。
目次
「どんぶり勘定」が隠してしまうリスク
分かりやすい例を挙げてみましょう。
ある法人で、以下の2つの事業を行っているとします。
* 訪問介護事業
* デイサービス事業
会社全体の試算表では、毎月50万円の黒字が出ています。社長は「うちは順調だ」と思っています。
しかし、これを会計ソフトで「部門別」に分けて出力してみると、衝撃の事実が見えることがあります。
* 訪問介護部門:+150万円の黒字
* デイサービス部門:▲100万円の赤字
* 会社全体:+50万円の黒字
いかがでしょうか。
実は、訪問介護が汗水流して稼ぎ出した利益の大部分が、デイサービスの赤字補填に消えていたのです。
デイサービスは家賃や水道光熱費などの固定費が高く、稼働率が少し下がるとすぐに赤字体質に陥ります。
この状態で「全体では黒字だから」と放置しているとどうなるでしょうか。もし頼みの綱である訪問介護のスタッフが辞めて売上が落ちれば、支えきれなくなったデイサービスの赤字が重くのしかかり、会社全体が一気に倒産危機に陥ってしまいます。
「赤字の犯人」を特定しなければ、手は打てない
経営改善の鉄則は、「どこに問題があるか」を正確に特定することです。
部門別会計を導入し、サービスごと、拠点ごとの損益が見えるようになれば、次のような具体的な打ち手が見えてきます。
「訪問介護は稼働率が高く安定しているが、デイサービスは定員に対して利用者が埋まっておらず、空き枠が多い」
「デイサービスの赤字は、稼働率が低いにも関わらず、過剰な人員配置を行っているため、売上に対する人件費率が高騰しているのが原因だ」
このように、数字を分解することで初めて、精神論ではない「外科手術的」な経営判断が可能になります。
限られた営業リソースを「どこ」に投下するか
また、部門別会計はコスト削減のためだけのものではありません。
「どちらの集客を重点的に行うか」という、攻めの経営判断の羅針盤にもなります。
例えば、先ほどの例で言えば、今の会社の課題は明らかに「デイサービスの赤字」です。
デイサービスの赤字原因が「利用者数が損益分岐点に達していないこと」だと分かれば、今月の営業活動は、好調な訪問介護は現状維持にし、デイサービスの集客に全精力を注ぐべきだ、という判断ができます。
逆に、デイサービスが構造的に利益が出にくい状態であれば、無理に集客コストをかけず、利益率の高い訪問介護をさらに伸ばす方向に舵を切る、という判断もあり得ます。
経営資源(ヒト・モノ・カネ)は有限です。
数字に基づいて「今、一番力を入れるべき場所」を明確にできることが、部門別管理の最大のメリットです。
「良い赤字」と「悪い赤字」を見極める
もちろん、「赤字部門はすぐに撤退すべき」という単純な話ではありません。
その赤字が「戦略的なもの」か「管理不足によるもの」かを見極める必要があります。
例えば、「居宅介護支援(ケアマネ部門)」は、単体で見るとトントンか、やや赤字になることも多い事業です。
しかし、その部門が自社のデイサービスや訪問介護に利用者を送り込む「営業の入り口」として機能しているのであれば、その赤字は「必要な広告宣伝費」と捉えることができます。これは「良い赤字(戦略的投資)」です。
一方で、相乗効果もなく、単にマネジメント不足で赤字を垂れ流している部門は「悪い赤字」です。こちらは早急に業務改善、あるいは撤退・縮小を検討する必要があります。
まとめ:数字の解像度を上げよう
経営者の仕事は、決断することです。
しかし、どんぶり勘定のままでは、勘や度胸に頼った決断しかできません。
「今の試算表を、部門別に見られるように変えたい」
「どの事業を残し、どこに力を入れるべきか相談に乗ってほしい」
当事務所では、単なる税金計算だけでなく、経営の「コックピット」となるような、見やすく判断に役立つ試算表作りをサポートしています。
数字の解像度を上げ、迷いのない経営判断をしていきましょう。
