介護福祉
【訪問看護】訪問看護事業における重要ポイントと注意点
訪問看護事業は、高齢化社会の進行に伴って需要が拡大している一方で、競争の激化や人材確保の難しさといった課題も抱えており、経営の安定化が求められる分野です。
成功している訪問看護ステーションには、十分な資金力、明確な理念、そして効果的な採用戦略といった共通点が見られます。
目次
事業開始前の重要な準備
綿密な事業計画の策定
訪問看護事業を成功へと導くための第一歩は、現実的かつ綿密な事業計画を策定することです。
事業計画書には、提供予定のサービス内容、対象とする地域・エリア、想定される利用者層、そして収益の見通しや資金繰りの計画などを明確に記載する必要があります。
地域ニーズの徹底調査
事業計画を立てる際には、地域における医療・介護ニーズの調査が欠かせません。
具体的には、高齢者人口や要介護認定者数、既存の訪問看護ステーションの数と提供内容、さらには医療機関や介護施設との連携の可能性などを把握しておく必要があります。
こうした地域のニーズや市場環境を正確に把握しないまま開設した場合、利用者の獲得に大きく苦労する可能性があります。
資金計画と運転資金の確保
訪問看護事業を安定的に運営していくためには、しっかりとした資金計画と十分な運転資金の確保が不可欠です。
開業初期は特に資金繰りが厳しくなる傾向にあるため、初期投資が比較的抑えられる業種とはいえ、運転資金としては1,000万円から1,500万円程度の準備が必要とされています。
また、自己資金については、最低でも全体の20%以上を確保しておくことが望ましいとされています。
人材確保と管理
看護師の採用と定着
訪問看護ステーションの経営は、訪問件数の増加により売上が伸びる仕組みとなっているため、訪問看護師を安定的に確保し、訪問回数を着実に増やしていくことが重要です。
制度上は常勤換算で2.5人以上の看護職員を配置することが求められ、あわせて24時間対応体制の整備も必要となります。
採用活動は、開設の6ヶ月前から始めるのが望ましく、求人媒体、紹介会社、人材バンク、SNSなど、複数の採用チャネルを併用して募集を進めることが効果的です。
人材の定着と育成
現在、訪問看護を含む医療分野全体で看護師不足が深刻な課題となっており、優秀な人材を確保・定着させることが事業所の評価向上や利用者の安定的な確保に直結します。
そのため、働きやすい職場環境の整備や、充実した福利厚生制度の構築が不可欠です。
質の高い看護師を採用し、継続して活躍してもらえる体制を整えることが、訪問看護事業の成否を左右するといっても過言ではありません。
経営管理のポイント
収益構造の理解
訪問看護における基本的な収益の仕組みは、医師が発行する「訪問看護指示書」に基づき、看護職員等が患者宅を訪問し、看護サービスを提供することで診療報酬や介護報酬を得るというものです。
厚生労働省の「令和4年度介護事業経営概況調査」によると、2021年度の訪問介護事業所における1か月あたりの平均収入は約300万3千円であり、1回の訪問あたりの収益はおおよそ8,000円程度とされています。
人件費管理
訪問看護ステーションの運営において、最も大きな支出となるのが人件費です。
令和5年度の国の調査では、訪問看護(介護保険)の支出全体のうち、約75%が給与費であるとされています。
人件費には、看護師の基本給や賞与、社会保険料などが含まれ、地域の相場や職員の経験年数によっても大きく異なります。
人件費は総支出の70〜80%を占めるため、適正な管理が経営の安定に直結します。
一人当たり売上の最適化
看護師1人あたりの月間売上は、「平均訪問単価 × 月間訪問件数」によって決まります。
介護保険による訪問看護の全国平均では、1人あたり月に約71.9回訪問しており、月20日稼働とすると、1日あたり約3.6件訪問している計算になります。
訪問件数を効率的に確保しつつ、人件費の過度な増加を避けることで、高い収益性を保つ経営が実現可能となります。
サービス品質管理
サービス提供体制強化加算の活用
「サービス提供体制強化加算」とは、看護師等の有資格者の割合や勤続年数などに基づき、質の高いサービス体制を評価する加算制度です。
具体的には、勤続7年以上の職員が30%以上在籍する場合は「加算(Ⅰ)」、勤続3年以上の職員が30%以上の場合は「加算(Ⅱ)」の対象となります。
この加算の取得は、職員の定着率の高さや経験値の厚さを対外的に示す指標となり、ステーション全体の信頼性向上にもつながります。
品質管理体制の構築
ご利用者に対して安定的に質の高い看護サービスを提供するためには、組織内における品質管理体制の整備が不可欠です。
たとえば、品質管理課を設置し、社内ガイドラインを明文化することで、職員が一定の基準で業務を遂行できる環境を整えることが重要です。
また、全職員でヒヤリハットの報告を共有し、リスクへの感度を高めるとともに、定期的にCS(顧客満足)調査を実施することで、サービス品質の継続的な改善を図ることが求められます。
リスクマネジメント
交通事故対応
訪問看護は、利用者のご自宅へ移動してサービスを提供する業務であるため、移動中の交通事故は常に想定すべきリスクのひとつです。
万が一、加害者となった場合には、負傷者の救護や道路上の危険防止措置、警察への連絡などが法律上の義務とされています。
こうしたリスクに備えて、事業所としては運転者の心構えをあらかじめチェックリスト化し、事故が発生した際の社内連絡体制を整備しておくことが非常に重要です。
個人情報保護とコンプライアンス
訪問看護ステーションでは、患者様の診療情報や生活情報といったセンシティブな個人情報を取り扱う場面が多くあります。
これらの情報を第三者に提供する際には、患者様の同意取得や、法令で定められた条件を遵守する必要があります。
コンプライアンス(法令遵守)は、単なる形式的なルールの問題にとどまらず、利用者との信頼関係を築き、安全かつ安心してサービスを受けていただくための土台となるものです。
その他のリスク要素
訪問看護という業務の特性上、さまざまな場面でリスクが発生する可能性があります。
たとえば、訪問時のトラブルや事故、移動中のアクシデント、利用者の私物に関わる物損・紛失などが挙げられます。
また、個人情報の管理ミスや、自然災害時の対応といった要素も事業継続に影響を与えるリスクとなります。
これらを想定したうえで、あらかじめ対応フローやマニュアルを整備しておくことが望まれます。
営業と利用者獲得
営業戦略の重要性
近年、訪問看護ステーションの数は年々増加しており、ケアマネジャーの立場から見ても紹介先の選択肢が多様化しています。
このような状況下では、単にサービスを提供するだけでなく、自事業所の特徴を明確に打ち出したブランディングと、戦略的な集客活動が求められます。
営業先としては、医療機関や地域包括支援センター、居宅介護支援事業所、さらには利用者宅などがあり、それぞれの対象に合わせたアプローチが必要です。
中でも、利用者をご紹介いただけるケアマネジャーが在籍する病院や介護施設などへの訪問を通じて、ステーションの理念や強みをしっかり伝えることが大切です。
営業活動の実践
経営者自身が積極的に営業活動に取り組むことで、事業所の認知度や信頼性は大きく高まります。
たとえば、月間延べ300件の営業訪問を目標に掲げ、継続的に活動を行ったことで、事業を大きく拡大させた事例もあります。
1件1件を丁寧に訪問し、良い印象を与えることで、「評判の良い訪問看護ステーション」として認知され、紹介件数の増加につながります。
営業活動の効果を可視化し、定期的に振り返ることで、さらなる改善と成果の最大化が期待できます。
業務効率化
デジタル化の推進
訪問看護業務を効率的に行うためには、デジタル技術の活用が大きな鍵となります。
なかでも重要なのが、業務の自動化、モバイル機器の活用、情報共有体制の整備という3つのポイントです。
たとえば、クラウド型の業務システムを導入することで、訪問スケジュールや利用者情報を全スタッフがリアルタイムで確認できるようになり、業務の重複や漏れを防ぐことが可能となります。
このような仕組みは、現場の看護師が本来のケア業務に集中できる環境づくりにもつながります。
効率的なスケジュール管理
看護師一人ひとりのスキルや訪問ルートを考慮し、最適なスケジューリングを行うことも、業務効率化の大きなポイントです。
スマートフォンやタブレットといったモバイル端末を活用することで、記録の作成や利用者情報の確認、他のスタッフの勤務予定や稼働状況の把握がスムーズに行えるようになります。
こうしたツールの導入により、業務負担を軽減し、限られた人員でも高いサービス品質を維持できる体制を整えることが可能となります。
注意すべき失敗要因
開業初期の失敗パターン
厚生労働省の調査によると、訪問看護ステーションのうち、開設から2年以内に約15%が廃業しているというデータがあります。
この背景には、事前準備の不足によるいくつかの失敗要因が存在します。
特に多いのが「資金計画の甘さ」「人材確保の遅れ」「地域ニーズの分析不足」といった点です。
たとえ初期の売上が好調であっても、資金繰りがうまくいかず資金ショートに陥るケースや、十分な準備期間を取らないまま開業し、採用が追いつかず経営が不安定になるケースもあります。
こうした失敗を避けるためには、開業前の綿密な計画と体制整備が何より重要です。
法的リスクの管理
訪問看護事業の運営において、法的リスクへの理解とその対策も欠かせません。
たとえば、医療事故やその隠ぺい、カルテの改ざん、不正請求、情報漏えい、不適切な行為などが該当します。
厚生労働省は、高額な請求や不適切なケースに対する指導体制を強化しており、今後は規模の大きい事業者に対して本省が直接対応する方針も発表されています。
管理者は、こうしたリスクに備えて職員教育や社内規定の整備を徹底し、常にコンプライアンス意識を高く保つ必要があります。
さいごに
訪問看護事業を安定的かつ持続的に運営するためには、開業前の入念な準備と、経営開始後の戦略的な運営が不可欠です。
綿密な事業計画、地域ニーズの把握、資金繰りの安定、人材の確保と定着、サービス品質の向上、そして法令遵守とリスク管理など、幅広い観点からの対応が求められます。
また、競争が激化する中で生き残るためには、独自性のあるサービスの提供やブランディング戦略の構築も重要です。
地域との信頼関係を築き、着実な営業活動を行いながら、デジタルツールを活用した業務効率化にも取り組むことで、より質の高い訪問看護サービスの提供が実現できます。
経営者として、現場と経営の双方を的確に把握し、柔軟かつ継続的に改善していく姿勢こそが、訪問看護事業の成功に直結するといえるでしょう。
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