介護福祉
利益を圧迫する「食事コスト」と「人件費」の見直し方。健全な収支バランスを取り戻すための財務チェックポイント
食事を提供する障害福祉・介護事業所では、食材価格と人件費の上昇が収益を圧迫する大きな要因となります。利用者数や売上が変わっていなくても、食材費、給与、社会保険料、光熱費、給食委託費などが上昇すれば、手元に残る資金は徐々に減っていきます。
一方、食事は利用者の健康や楽しみ、生活の質に直結するものです。安い食材への変更や量の削減だけで対応することは適切ではありません。また、業務工程を見直さずに職員数を減らせば、残業や事故、欠勤、離職の増加につながる可能性があります。
必要なのは、一時的な経費削減ではありません。どこでコストが発生しているかを把握し、食事の質、職員の負担、事業所の利益を持続可能な状態へ整えることです。
目次
まずは「1食当たりの実際原価」を計算する
多くの事業所では、食材費を月間の合計額で確認しています。しかし、月額だけでは食事提供が効率的に行われているかを判断できません。
まず、次の算式で1食当たりの原価を計算します。
食事提供に関する費用の合計÷実際に提供した食数
食事提供に関する費用には、食材費だけでなく、次のような支出も含まれます。
- 食材、飲料の仕入代金
- 調理職員の給与
- 会社負担分の社会保険料
- 給食委託費
- 厨房で使用する水道光熱費
- 洗剤などの衛生用品費
- 使い捨て容器や食器の費用
- 調理設備の修繕費、減価償却費
- 廃棄物の処理費用
「1食当たり食材費」と「1食当たり総原価」の両方を計算することが大切です。食材費は仕入れや献立の管理に、総原価は食事提供全体の採算性を確認するために役立ちます。
食材費が増加した原因を分解する
食材費が増えたとき、原因を物価上昇だけに求めてはいけません。事業所内部の運用に原因がある可能性もあります。
次の項目を確認しましょう。
- 予定食数と実際の提供食数との差
- 発注後のキャンセル件数
- 食べ残しや調理時の廃棄
- 仕入先ごとの購入単価
- 小売店などでの緊急購入
- 盛り付け量や過剰な仕込み
- 高価格食材を使用する頻度
- 在庫の期限切れや腐敗
- 通常食と特別食の原価差
特に重要なのが、「作った食数」と「実際に提供した食数」の差です。
100食を調理して92食しか提供しなかった場合、8食分の原価を回収できません。毎日の差は小さく見えても、年間では大きな損失になります。
食事の予約・キャンセル期限を明確にし、発注担当者が利用者の出欠や入院などの最新情報を確認できる仕組みを作りましょう。
食材費と人件費を別々に判断しない
安い食材を購入しても、食事提供全体のコストが下がるとは限りません。
例えば、未加工の食材は購入価格が安くても、洗浄、カット、小分け、清掃などに多くの作業時間が必要です。
一方、カット野菜や冷凍食材、調理済み食材は購入価格が高くても、下処理にかかる時間を短縮できます。廃棄量や衛生管理上のリスクを減らせる可能性もあります。
比較すべきなのは、単純な食材価格ではなく、次の合計額です。
食材費+人件費+光熱費+廃棄コスト
価格の高い食材でも、厨房業務を数時間削減できれば、1食当たりの総原価が下がることがあります。請求書上の購入価格だけでなく、調理工程全体で判断しましょう。
ただし、効率化によって食事の安全性を低下させてはいけません。社会福祉施設における食事提供では、正しい衛生管理などの必要な安全対策を維持することが前提です。
厨房業務の流れを見える化する
人件費が増える原因の一つに、長年の運用によって業務工程が複雑化していることがあります。
次のような一連の流れを整理しましょう。
- 献立の作成
- 食材の発注
- 納品、検品
- 保管
- 下処理
- 調理
- 盛り付け
- 配膳
- 下膳
- 洗浄、清掃
- 記録、在庫管理
各工程について、誰が担当し、どれくらいの時間がかかっているかを確認します。重複した確認作業、不要な書類、非効率な移動、まとめて実施できる作業などが見つかる可能性があります。
介護・支援職員が日常的に厨房業務を手伝っていないかも確認が必要です。その時間が給食部門の人件費として処理されていなくても、実際には食事提供のために使われている人件費です。
食事業務に時間を取られれば、職員が本来行うべき利用者支援の時間も減少します。
直営と委託を正しく比較する
食事提供を外部へ委託する場合と、事業所内で調理する場合のどちらが有利かは、単純な金額だけでは判断できません。
直営の場合は、給与、社会保険料、採用費、研修費、食材費、光熱費、修繕費、衛生用品費、欠勤時の代替職員費まで含めます。
委託の場合は、基本委託料、追加食の料金、配送費、契約管理にかかる費用、今後の価格改定リスクなどを含めます。
委託すると採用や欠勤のリスクを軽減できる一方、1食当たりの単価が高くなったり、献立の自由度が下がったりする場合があります。直営は個別対応を行いやすい一方で、安定した人材確保と管理体制が必要です。
事業所の規模、提供食数、厨房設備、利用者の状態、地域の採用環境などを踏まえて判断しましょう。
人手不足を招かない人件費の見直し
人件費管理は重要ですが、勤務時間や職員数を減らすことから始めるべきではありません。
先に次の項目を確認します。
- 職員別、部門別の残業時間
- 特定の職員に集中している業務
- 発注や記録にかかる時間
- 派遣・人材紹介の利用状況
- 欠勤時の代替勤務
- 資格が必要な業務と必要でない業務
- 献立や調理工程を簡素化できないか
- デジタル化できる事務作業がないか
職員を1名増やすことで、高額な残業代や派遣費、離職による採用費を減らせる場合もあります。職員数だけでなく、雇用に関する費用全体で判断することが大切です。
月次で確認したい財務チェックポイント
次の指標を月次資料にまとめると、問題を早期に発見できます。
- 予定食数、調理食数、実際の提供食数
- 1食当たり食材費
- 1食当たり総原価
- 食材廃棄率
- 厨房の総労働時間
- 残業時間
- 給食委託費
- 食事に関する収入、加算
- 食事収入と食事コストの差額
- 事業所全体の人件費率
- 月間利益、預金残高
各数値は、予算、前月、前年同月と比較します。
食材費が増えていても、廃棄が減り、食事の質が向上しているのであれば、必ずしも悪い結果ではありません。一方、食材費が変わらないのに厨房の労働時間が増えている場合は、業務工程の見直しが必要です。
まとめ
食事コストと人件費は、それぞれを独立して削減するのではなく、1食を提供するために必要な費用全体として捉えることが重要です。
食材、調理方法、職員配置、廃棄量、衛生管理、利用者の出欠がどのように影響し合っているかを見える化しましょう。
健全な財務管理は、利益を守るだけではありません。食事の質を維持し、職員の過度な負担を防ぎ、安全で安定したサービスを継続することにつながります。
当税理士法人では、障害福祉・介護事業所の原価分析、人件費シミュレーション、月次業績管理、資金繰り計画、直営と外部委託の比較などを支援しています。サービスの質を守りながら収支を改善したい事業者様は、お気軽にご相談ください。
