介護福祉
売上は伸びているのに利益が残らない?訪問看護ステーション経営で社長が見るべき数字
訪問看護ステーションでは、利用者数が増え、訪問件数が増え、売上が伸びていると、経営が順調に見えることがあります。
しかし、売上が伸びているからといって、必ず利益が残るわけではありません。訪問看護は、人件費、移動時間、記録業務、請求業務、緊急対応、オンコール、残業などが利益に大きく影響する事業です。
社長が見るべきなのは、「今月いくら売上があったか」だけではありません。「その売上を上げるために、どれだけの人件費と時間がかかり、最終的にいくら利益と現金が残ったか」です。
目次
1.1訪問あたり売上
まず確認したいのが、1訪問あたりの売上です。
訪問看護の売上は、医療保険か介護保険か、訪問時間、訪問回数、利用者の状態、緊急対応の有無、各種加算の算定状況などによって変わります。
訪問件数が増えていても、1訪問あたり売上が下がっている場合は注意が必要です。短時間訪問が多い、移動距離が長い、キャンセルが多い、加算が取れていないなど、忙しい割に利益が残らない構造になっている可能性があります。
月間売上を訪問件数で割り、1訪問あたりの平均売上を確認しましょう。さらに、医療保険・介護保険別、利用者区分別、担当者別に見ると、収益構造がより分かりやすくなります。
2.常勤換算1人あたり訪問件数
次に見るべき数字は、常勤換算1人あたりの訪問件数です。
訪問看護は人が売上を生む事業です。職員1人あたり、どれだけの訪問を無理なく実施できているかが採算に直結します。
売上が伸びていても、その理由が職員の残業や無理なシフトによるものであれば、長続きしません。反対に、職員を増やしたものの訪問件数が伸びていない場合は、人件費が先行して利益を圧迫します。
ここで大切なのは、職員に訪問件数を無理に増やさせることではありません。移動ルート、記録時間、事務作業、申し送り、会議などによって、訪問に使える時間が削られていないかを確認することです。
3.人件費率
訪問看護ステーションで最も大きな経費は、一般的に人件費です。
人件費率は、次の算式で確認します。
人件費総額 ÷ 売上高 × 100
人件費には、給与だけでなく、賞与、会社負担分の社会保険料、残業代、採用費、研修費、派遣費なども含めて考える必要があります。
人件費率が上がること自体が悪いわけではありません。将来の成長に向けた採用、サービス品質向上のための人員強化であれば、必要な投資といえます。
しかし、人件費率が上がっているにもかかわらず、訪問件数や1訪問あたり売上が伸びていない場合、利益は確実に圧迫されます。
社長は、人件費が増えた理由を確認する必要があります。採用によるものか、残業によるものか、シフトの非効率によるものか、離職による採用費増加なのかを分けて見ましょう。
4.移動時間と非稼働時間
利益が残らない大きな原因の一つが、売上にならない時間です。
訪問看護職員の勤務時間すべてが、請求できる訪問時間になるわけではありません。移動、記録、主治医やケアマネジャーとの連絡、会議、報告書作成、電話対応、緊急調整などの時間があります。
移動時間が長く、ルートが非効率であれば、職員は一日中忙しく働いているにもかかわらず、請求できる訪問件数は限られます。
勤務時間を、訪問時間とそれ以外の時間に分けて確認しましょう。非稼働時間が増えている場合は、訪問エリア、ルート作成、記録方法、連絡ルール、事務分担を見直す必要があります。
利用者数が多くても、移動と事務に時間を取られすぎていれば、利益は残りません。
5.キャンセル率
キャンセルは、訪問看護の利益に直接影響します。
職員のシフトは事前に組まれています。訪問予定がキャンセルになると、売上は発生しませんが、人件費は発生します。その時間を別の訪問や記録業務に振り替えられなければ、生産性が下がります。
キャンセル件数、キャンセル理由、キャンセルのタイミング、代替訪問を入れられたかを確認しましょう。
特定の利用者や特定の曜日、特定のエリアでキャンセルが多い場合は、スケジュールの組み方や連絡体制、訪問枠の設定を見直す必要があります。
6.残業時間とオンコール負担
残業とオンコールは、利益だけでなく職員定着にも影響します。
試算表上は利益が出ていても、職員が慢性的に残業し、夜間や休日の電話対応が一部の職員に集中していれば、経営は安定しているとはいえません。負担が続けば、疲弊、ミス、離職につながります。
社長は、職員別の残業時間、緊急対応件数、夜間・休日の連絡件数、オンコール担当の偏りを確認しましょう。
特定の経験者だけに緊急対応や判断業務が集中している場合、その職員が退職した瞬間に運営が不安定になります。これは人材リスクであり、財務リスクでもあります。
7.加算収入と請求漏れ
訪問看護の売上は、加算や請求精度にも大きく左右されます。
現場で必要な支援を行っていても、記録が不足していたり、算定要件の確認が漏れていたりすると、本来請求できる収入を失うことになります。すでに人件費は発生しているため、請求漏れはそのまま利益を減らします。
毎月、算定している加算、算定できていない加算、要件を満たしているか、記録が整っているかを確認しましょう。
予定請求額と実際請求額に差がある場合、加算漏れ、請求ミス、記録不足、請求遅れが発生している可能性があります。
8.利用者別・エリア別の採算
すべての利用者が同じように利益に貢献するわけではありません。
移動距離が長い利用者、連絡調整が多い利用者、緊急対応が多い利用者、複数職員の関与が必要な利用者は、売上以上に時間と人件費がかかっている場合があります。
もちろん、採算だけで利用者を選別すべきではありません。しかし、どの利用者層・エリア・サービスがどれだけ経営に影響しているかを把握することは重要です。
エリア別、ルート別、利用者区分別に採算を確認することで、訪問エリアの見直し、シフト調整、人員配置、重点サービスの検討がしやすくなります。
9.利益ではなく資金繰りも見る
最後に、社長が必ず確認すべきなのが資金繰りです。
会計上は黒字でも、賞与、社会保険料、税金、借入返済、車両費、システム費、採用費などの支払いが重なると、現金が残らないことがあります。
毎月の資金繰り表を作成し、入金予定、給与、社会保険料、税金、家賃、車両費、借入返済、大きな支出予定を確認しましょう。
売上が下がった場合や、人件費が増えた場合に、何か月運営できるかを把握しておくことが大切です。
まとめ
訪問看護ステーションは、売上が伸びていても、利益が残らないことがあります。原因は、売上そのものではなく、その裏側にある人件費、移動時間、非稼働時間、キャンセル、残業、加算漏れ、資金繰りにあります。
社長が見るべき数字は、1訪問あたり売上、常勤換算1人あたり訪問件数、人件費率、移動時間、キャンセル率、残業時間、加算収入、利用者別・エリア別採算、資金繰りです。
これらを毎月確認できれば、採用、シフト、訪問エリア、請求管理、設備投資の判断精度が上がります。
当税理士法人では、訪問看護ステーション向けに、月次業績レポート、人件費分析、資金繰り計画、加算・請求漏れの確認、経営ダッシュボード作成を支援しています。売上を伸ばすだけでなく、利益と現金が残る経営体制を一緒に整えていきましょう。
