介護福祉
ヘルパー不足だけが原因ではない。訪問介護事業で利益が残りにくい本当の理由
訪問介護事業を運営していると、「ヘルパーが足りない」という悩みは避けて通れません。採用が難しく、職員が不足すれば、新規利用者を受け入れられず、売上を伸ばすことも難しくなります。
しかし、訪問介護で利益が残りにくい理由は、ヘルパー不足だけではありません。
売上が増えていても、職員が一生懸命働いていても、なぜか利益が残らない。こうした場合、原因は事業の構造そのものに隠れていることがあります。
移動時間、待機時間、キャンセル、短時間サービス、非効率なシフト、記録や請求の手間、管理者の調整業務、請求漏れ、エリア別の採算悪化などです。
経営を改善するためには、「人が足りない」という問題だけでなく、「どこで時間と人件費が失われているのか」を数字で確認する必要があります。
目次
1.売上が増えても、売上にならない時間も増えている
訪問介護は、施設型サービスと異なり、職員が一つの場所で働くわけではありません。利用者宅から利用者宅へ移動し、訪問の合間に待機し、記録を書き、ケアマネジャーや家族と連絡を取り、急な予定変更にも対応します。
つまり、勤務時間のすべてが請求できるサービス時間になるわけではありません。
たとえば、ヘルパーが1日6時間勤務していても、移動、待機、記録、連絡調整に2時間かかっていれば、実際に売上を生む時間は4時間程度です。この状態が続くと、職員は忙しく働いているのに、利益は思ったほど残りません。
まずは、職員の勤務時間を「請求できるサービス時間」と「それ以外の時間」に分けて確認しましょう。売上にならない時間が多い場合は、訪問エリア、移動ルート、シフト作成、記録方法を見直す必要があります。
2.短時間サービスが多いと生産性が下がる
訪問介護では、20分や30分といった短時間サービスも多くあります。利用者支援のために必要なサービスではありますが、経営面では注意が必要です。
短時間サービスそのものが悪いわけではありません。しかし、訪問時間が短いにもかかわらず、移動時間が長い場合、1件あたりの採算は悪くなります。
たとえば、30分のサービスのために往復30分以上かかるようなケースが続けば、職員の拘束時間に対して売上が伸びにくくなります。
大切なのは、短時間サービスをどのように組み合わせるかです。同じエリアに集中しているのか、効率よく回れるルートになっているのか、空き時間が発生していないかを確認しましょう。
件数だけではなく、ルート単位で採算を見ることが重要です。
3.キャンセルは利益を直接減らす
訪問介護で利益を減らす大きな要因がキャンセルです。
職員のシフトは事前に組まれています。予定していた訪問がキャンセルになると、その分の売上は発生しません。しかし、職員の給与は発生します。空いた時間に別の訪問や記録業務を入れられなければ、生産性は下がります。
キャンセル件数、キャンセル理由、キャンセルが発生するタイミング、代替訪問を入れられたかを毎月確認しましょう。
特定の利用者や特定の曜日、特定の時間帯にキャンセルが多い場合は、連絡ルール、スケジュールの組み方、キャンセル時の対応、予備業務の設定を見直す必要があります。
キャンセルは単なる予定変更ではなく、利益に直結する経営課題です。
4.人件費は時給だけで判断しない
ヘルパーの人件費を考えるとき、時給だけを見て判断してしまうことがあります。しかし、実際の人件費はそれだけではありません。
移動時間の賃金、待機時間、残業代、社会保険料、有給休暇、研修費、採用費、欠勤時の代替対応、管理者がシフト調整に使う時間、事務職員の給与なども含めて考える必要があります。
請求できるサービス時間に対して、実際に支払っている人件費がどれくらいあるのかを確認しましょう。
時給は適正に見えても、移動や待機が多いシフトであれば、1時間の売上を得るためにかかる人件費は高くなります。
訪問介護では、「給与が高いから利益が出ない」のではなく、「売上にならない時間に人件費がかかっている」ことが原因になっている場合があります。
5.シフト作成の非効率が見えない赤字を生む
訪問介護では、シフト作成が利益を大きく左右します。
同じ訪問件数でも、近いエリアで効率よく回れる場合と、離れた場所を行き来する場合では、利益が大きく変わります。
シフトが非効率だと、ヘルパーは疲弊します。移動時間が増え、空き時間が増え、急な変更も起こりやすくなります。その結果、売上は伸びているのに、利益が残らない状態になります。
また、シフト調整には管理者の時間もかかります。キャンセル対応、職員への連絡、利用者への連絡、代替職員の手配などに多くの時間を取られている場合、その時間も実質的なコストです。
エリアごとに訪問がまとまっているか、特定の職員に負担が偏っていないか、移動時間が長すぎないか、急な変更が多すぎないかを確認しましょう。
6.管理者・サービス提供責任者の業務負担が重い
訪問介護では、管理者やサービス提供責任者の業務が非常に多くなりやすいです。
訪問介護計画書の作成、ケアマネジャーとの連絡、シフト調整、ヘルパーへの指示、記録確認、請求確認、研修、苦情対応、急な欠勤対応など、売上に直接見えにくい業務が多くあります。
事業が拡大しても、管理業務の仕組みが整っていなければ、管理者の残業が増えます。社長から見ると売上は伸びているように見えても、現場では管理者が限界に近い状態で事業を支えていることがあります。
管理者やサービス提供責任者の残業時間、記録確認にかかる時間、シフト調整にかかる時間、請求前チェックの負担を確認しましょう。
必要に応じて、介護ソフトの活用、記録様式の標準化、業務分担、事務職員への移管を検討することが重要です。
7.請求漏れ・記録不備が利益を減らす
サービスを提供していても、請求が正しくできていなければ売上にはなりません。
訪問介護では、サービス実績の記録漏れ、予定と実績の不一致、サービスコードの誤り、加算の算定漏れ、記録提出の遅れなどが起こることがあります。
1件あたりの金額は小さく見えても、毎月積み重なると大きな損失になります。人件費はすでに発生しているため、請求漏れはそのまま利益を減らします。
毎月、予定表、実績記録、請求データ、入金額を照合しましょう。予定していた請求額と実際の請求額に差がある場合は、請求漏れや記録不備がないか確認する必要があります。
8.利用者別・エリア別の採算を見る
すべての利用者が同じように利益に貢献しているわけではありません。
近いエリアにあり、安定して利用がある利用者もいれば、移動距離が長く、キャンセルが多く、連絡調整に時間がかかる利用者もいます。
もちろん、採算だけで利用者を選ぶべきではありません。しかし、どのエリア・どの利用者層で利益が残りにくいのかを把握しなければ、経営判断ができません。
エリア別、ルート別、サービス内容別に採算を確認することで、訪問エリアの見直し、シフト改善、新規利用者の受け入れ方、職員配置の判断がしやすくなります。
9.ヘルパーを増やせば解決するとは限らない
ヘルパー採用は重要です。しかし、ヘルパーを増やせば自動的に利益が増えるわけではありません。
移動ルートが非効率、キャンセルが多い、記録が遅い、請求チェックが弱い、管理者の業務が整理されていない。このような状態で人を増やすと、人件費だけが増え、利益はさらに残りにくくなります。
採用を進める前に、現在の事業構造が利益を生む形になっているかを確認しましょう。
順番としては、シフトの見直し、非稼働時間の削減、請求精度の向上、訪問エリアの整理、管理業務の効率化を行い、そのうえで必要な人員を採用することが理想です。
まとめ
訪問介護事業で利益が残りにくい原因は、ヘルパー不足だけではありません。
売上にならない時間、短時間サービスの組み方、キャンセル、移動効率、人件費の構造、管理者業務、請求漏れ、エリア別採算など、複数の要因が重なっています。
社長が見るべき数字は、売上合計だけではありません。請求できるサービス時間、非稼働時間、キャンセル率、人件費率、1時間あたり売上、ルート別採算、請求漏れ、資金繰りを毎月確認することが大切です。
当税理士法人では、訪問介護事業者向けに、月次業績レポート、人件費分析、エリア別採算の確認、請求・加算漏れのチェック、資金繰り計画の作成を支援しています。ヘルパー不足という課題に向き合いながらも、利益が残る経営体制を一緒に整えていきましょう。
