介護福祉

利用者数が増えても利益が残らない理由。介護・福祉事業で見落としがちな固定費の管理方法

介護・福祉事業では、利用者数が増えることは本来喜ばしいことです。

稼働率が上がる。売上が増える。地域での認知度が上がる。紹介も増える。経営が順調に見えるタイミングです。

しかし、実際には「利用者数は増えているのに利益が残らない」という相談は少なくありません。

その原因の一つが、固定費の管理不足です。

介護・福祉事業では、人件費、家賃、車両、リース料、システム利用料、保険料、管理部門費、借入返済など、毎月固定的に発生する支出が多くあります。利用者数が増えて売上が伸びても、固定費が膨らんでいれば利益は残りません。

固定費とは何か

固定費とは、利用者数や売上に関係なく毎月発生する費用です。

代表的なものは、家賃、リース料、システム利用料、保険料、通信費、管理者給与、事務職員給与、車両関連費、借入返済、広告費の一部などです。

これに対して、食材費、日用品費、レクリエーション費、送迎燃料費、訪問に応じた消耗品などは、利用者数やサービス量に応じて増減しやすい費用です。

固定費の怖いところは、一度増えると簡単に減らせないことです。

広い物件を借りる。車両を増やす。リース契約をする。システムを追加する。正社員を増やす。これらは、毎月の支払いを増やします。

売上が伸びている間は問題が見えにくいですが、利用者数が減ったり、キャンセルが増えたり、加算が取れなかったりすると、固定費が一気に利益を圧迫します。

利用者数増加と利益増加は同じではない

利用者数が増えれば、売上は増えやすくなります。

しかし、利益が増えるかどうかは別問題です。

たとえば、利用者数が増えたことで、職員を追加採用したとします。車両も増やし、送迎ルートも広がり、システムアカウントも追加し、事務負担も増えたとします。

この場合、売上は増えても、人件費、車両費、燃料費、保険料、通信費、管理コストも増えます。

さらに、新規利用者が遠方で移動時間が長い、医療依存度が高く対応に時間がかかる、キャンセルが多い、単価が低い場合、売上の割に利益が残りにくくなります。

介護・福祉事業では、「何人増えたか」だけでなく、「どのような利用者が増えたか」「そのためにどの固定費が増えたか」を確認する必要があります。

家賃は売上に見合っているか

固定費の中でも、家賃は大きな支出です。

通所系サービス、児童発達支援、放課後等デイサービス、生活介護、就労支援、グループホームなどでは、物件費が毎月発生します。

家賃は、利用者数が少なくても満員でも同じ金額です。そのため、開業初期や稼働率が低い時期には大きな負担になります。

物件を選ぶ際は、広さや立地だけでなく、売上に対する家賃の割合を確認しましょう。

定員、想定稼働率、1人当たり売上、営業日数をもとに、満員時の売上だけでなく、稼働率が50%、70%の場合でも家賃を支払えるかを試算します。

家賃が高い物件は、売上が伸びたときには問題が見えにくいですが、稼働率が落ちたときに一気に赤字要因になります。

車両費は台数だけでなく稼働率を見る

介護・福祉事業では、送迎や訪問のために車両が必要になることがあります。

車両は、購入費、リース料、自動車保険、車検、修理、燃料費、駐車場代、税金など、さまざまな費用がかかります。

利用者数が増えると、車両を増やしたくなる場面があります。しかし、車両を増やす前に、現在の車両稼働率を確認しましょう。

本当に台数が足りないのか。送迎ルートを見直せば対応できないか。曜日や時間帯で偏りがないか。遠方利用者が利益を圧迫していないか。送迎職員の人件費も含めて採算が合っているか。

車両を1台増やすと、毎月の固定費が増えます。利用者数が減っても、車両費は残ります。

送迎や訪問は、売上だけでなく、ルート効率、移動時間、車両稼働率で管理することが重要です。

システム利用料・リース契約に注意

近年、介護ソフト、勤怠管理、給与計算、記録システム、見守り機器、タブレット、通信機器など、さまざまなICTサービスを導入する事業所が増えています。

ICT導入は業務効率化に役立ちます。しかし、月額利用料やリース契約が積み重なると、固定費が増えます。

1つひとつは少額でも、複数契約すると毎月大きな支出になります。

導入前には、そのシステムがどの業務を改善し、何時間削減でき、どのミスを減らし、どの収益改善につながるのかを確認しましょう。

使いこなせていないシステム、重複しているシステム、解約できる契約がないかも定期的に見直します。

人件費も固定費化しやすい

人件費は変動費のように見える場合もありますが、正社員を採用すると固定費に近い性質を持ちます。

利用者数が減っても、すぐに給与を減らすことはできません。人員基準やサービス品質を考えると、簡単に人を減らすこともできません。

そのため、採用前には、売上増加見込みと人件費増加を比較する必要があります。

新たに職員を1人採用する場合、その職員の給与、社会保険料、賞与、採用費、研修費を含めて、毎月どれくらいの売上が必要かを確認しましょう。

採用は、売上を増やすための投資です。ただし、利用者数が計画どおり増えなければ、固定費だけが増えることになります。

固定費は月次で一覧化する

固定費を管理するには、毎月一覧で確認することが大切です。

家賃、車両費、リース料、システム利用料、保険料、通信費、広告費、管理部門人件費、借入返済、顧問料などを一覧化します。

そして、前月比、前年同月比、売上に対する割合を確認します。

固定費が増えた月には、なぜ増えたのかを必ず確認しましょう。新しい契約が始まったのか。車両を増やしたのか。保険料が上がったのか。システムを追加したのか。

一度増えた固定費は、放置すると毎月の利益を削り続けます。

損益分岐点を確認する

固定費管理で重要なのが、損益分岐点です。

損益分岐点とは、利益がゼロになる売上のことです。

固定費が増えると、損益分岐点も上がります。つまり、黒字化するために必要な売上が増えるということです。

利用者数が増えても利益が残らない場合、固定費が増えたことで、黒字化に必要な売上水準が上がっている可能性があります。

毎月、現在の固定費で、何人の利用者、何件の訪問、どれくらいの稼働率が必要かを確認しましょう。

まとめ

介護・福祉事業では、利用者数が増えても、固定費が増えすぎると利益は残りません。

家賃、車両費、リース料、システム利用料、人件費、保険料、借入返済などは、毎月発生し続けます。売上が伸びているときほど、固定費の増加に気づきにくくなります。

固定費を管理するには、月次で一覧化し、売上に対する割合、前月比、前年同月比、損益分岐点への影響を確認することが重要です。

当税理士法人では、介護・福祉事業者向けに、固定費分析、損益分岐点シミュレーション、部門別損益、人件費分析、資金繰り表、月次業績ダッシュボードの作成を支援しています。利用者数が増えても利益が残らない場合は、まず固定費の中身を見える化してみましょう。

このコラムを監修した税理士

田代 健太郎

クロスト税理士法人 代表社員

近畿税理士会所属、登録番号126849号
税理士法人3社での勤務を経て、2015年に「田代健太郎税理士事務所」を設立。その後2018年に法人化し「クロスト税理士法人」に。
財務・税務調査の専門家として、決算申告業務、経営支援業務、独立・開業支援業務、医業福祉業の経営支援業務などの業務を提供。
法人に対する支援業務にとどまらず、生命保険・金融資産の検討・見直し、不動産運用に関するコンサルティング、
また相続申告、相続対策など、個人に対しても幅広い各種サービスを提供している。

書籍:「税務調査の良い受け方・正しい対応方法」、「会社経営者であれば知っておきたい節税のイロハ」、「創業計画書つくり方・活かし方」、ゼッタイ得する会社のつくり方はじめ方」、「相続の税金と対策」、「歯科医院経営の成功手法がわかる本」他。

クロスト税理士法人 https://crosst-tax.jp/

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