介護福祉

介護・福祉事業の黒字化はいつから?開業1年目に確認したい損益分岐点の考え方

介護・福祉事業を開業する際、多くの社長が気にするのが「いつ黒字化するのか」です。

開業初年度は、物件取得、内装工事、採用、研修、広告、備品購入、車両、システム導入など、支出が先行します。一方で、利用者数はすぐに満員になるとは限りません。

そのため、開業直後は赤字になることが珍しくありません。大切なのは、赤字そのものを恐れることではなく、いつ、どの条件で黒字化できるのかを事前に把握しておくことです。

そのために必要なのが、損益分岐点の考え方です。

損益分岐点とは何か

損益分岐点とは、利益がゼロになる売上のことです。

売上が損益分岐点を上回れば黒字、下回れば赤字になります。

介護・福祉事業では、固定費が大きいため、損益分岐点を把握することが非常に重要です。

固定費には、給与、社会保険料、家賃、リース料、システム利用料、保険料、通信費、車両費、借入返済に伴う資金支出などがあります。利用者数が少なくても毎月発生します。

一方で、食材費、消耗品、燃料費、レクリエーション費などは、利用者数やサービス量に応じて増減しやすい費用です。

黒字化を考えるには、まず毎月の固定費を把握し、それを回収するために必要な売上を計算します。

利用者数で損益分岐点を見る

介護・福祉事業では、損益分岐点を売上金額だけでなく、利用者数や稼働率で見ると分かりやすくなります。

たとえば、通所系サービスであれば、月に何人の利用があれば固定費を回収できるのか。訪問系サービスであれば、月に何件の訪問が必要なのか。グループホームであれば、何室入居していれば赤字を回避できるのか。

このように、経営者様が現場感覚で分かる単位に落とし込むことが大切です。

「月商300万円必要」と言われてもイメージしにくいですが、「1日平均8名の利用が必要」「月間訪問件数が180件必要」と分かれば、現場の営業活動やシフト計画につなげやすくなります。

開業初年度は段階的に見る

開業初年度は、いきなり満員稼働を前提にしてはいけません。

利用者数は、徐々に増えるのが一般的です。紹介元との関係構築、契約、サービス開始、利用継続には時間がかかります。

そのため、開業後1か月目、3か月目、6か月目、12か月目のように、段階的に損益を確認しましょう。

開業初月は赤字でも、3か月目に赤字幅が縮小し、6か月目に損益分岐点へ近づき、12か月目に安定黒字を目指す。このような計画を作ると、資金繰りも見通しやすくなります。

大切なのは、赤字期間に必要な運転資金を確保しておくことです。

黒字化の時期を見込んでいても、そこに到達する前に資金が尽きれば事業は続けられません。

人件費を正しく入れる

損益分岐点の計算で最も重要なのが人件費です。

介護・福祉事業では、職員配置がサービス提供の前提です。利用者数が少ない時期でも、一定の人員を確保しなければなりません。

人件費には、給与だけでなく、社会保険料、賞与、残業代、各種手当、処遇改善関連支給、採用費、研修費も含めて考えます。

よくある失敗は、給与だけで試算してしまうことです。会社負担の社会保険料や賞与を入れていないと、実際の損益は計画より悪くなります。

また、開業初年度は、新人教育や同行、記録作成、営業活動、会議など、直接売上につながらない時間も多く発生します。

職員1人が理論上こなせる件数ではなく、実際に無理なく提供できる件数で計算しましょう。

加算は慎重に見込む

介護・福祉事業では、加算収入も大きな要素です。

加算を取得できれば売上は増え、黒字化も早まります。しかし、加算には要件があります。人員体制、記録、計画書、研修、会議、届出などが整っていなければ算定できません。

開業計画で加算を過大に見込むと、実際の売上が計画より低くなります。

加算は、確実に取得できるもの、準備中のもの、将来的に取得を目指すものに分けて考えましょう。

開業初年度は、まず基礎的な運営を安定させ、そのうえで加算取得を進める方が安全です。

固定費を増やしすぎない

損益分岐点を下げるためには、固定費を抑えることも重要です。

家賃の高い物件、過剰な内装、高額なリース、必要以上の車両、使いこなせないシステム、過大な広告契約などは、毎月の固定費を押し上げます。

固定費が増えると、黒字化に必要な売上も増えます。

開業時は、見栄えや理想を追いかけすぎず、指定基準、安全性、サービス品質、業務効率に必要な支出を優先しましょう。

「今すぐ必要な支出」と「開業後に売上が安定してからでもよい支出」を分けることが大切です。

資金繰りとセットで見る

損益分岐点は利益の話ですが、開業初年度は資金繰りとセットで見る必要があります。

損益上は赤字幅が縮小していても、売上の入金は後になります。借入返済や税金、社会保険料、設備投資は、損益とは別に現金を減らします。

そのため、黒字化の時期だけでなく、黒字化までの赤字累計と資金残高を確認しましょう。

たとえば、6か月目に損益分岐点を超える計画であれば、1〜5か月目の赤字と入金サイトを踏まえて、何円の運転資金が必要かを試算します。

「いつ黒字化するか」と同時に、「黒字化するまで資金が持つか」を見ることが重要です。

月次で計画と実績を比較する

開業後は、毎月、計画と実績を比較しましょう。

確認する項目は、利用者数、稼働率、訪問件数、売上単価、加算収入、人件費、固定費、営業利益、預金残高、未収金です。

計画より利用者数が少ない場合、営業活動や紹介ルートを見直します。人件費が高い場合、シフトや採用時期を見直します。固定費が増えている場合、契約内容を確認します。加算が取れていない場合、要件や記録を確認します。

損益分岐点は、開業前に一度計算して終わりではありません。実績に合わせて毎月更新するものです。

まとめ

介護・福祉事業の黒字化は、感覚ではなく数字で確認する必要があります。

損益分岐点を把握することで、黒字化に必要な売上、利用者数、稼働率、訪問件数が見えてきます。

開業初年度は、利用者数が徐々に増える前提で、1か月目、3か月目、6か月目、12か月目の損益をシミュレーションしましょう。人件費、固定費、加算、入金サイト、資金繰りも合わせて確認することが大切です。

当税理士法人では、介護・福祉事業者向けに、開業初年度の損益分岐点分析、利用者数シミュレーション、人件費計画、資金繰り表、月次業績管理、黒字化ロードマップの作成を支援しています。黒字化を願うのではなく、黒字化に必要な数字を見える化して経営していきましょう。

このコラムを監修した税理士

田代 健太郎

クロスト税理士法人 代表社員

近畿税理士会所属、登録番号126849号
税理士法人3社での勤務を経て、2015年に「田代健太郎税理士事務所」を設立。その後2018年に法人化し「クロスト税理士法人」に。
財務・税務調査の専門家として、決算申告業務、経営支援業務、独立・開業支援業務、医業福祉業の経営支援業務などの業務を提供。
法人に対する支援業務にとどまらず、生命保険・金融資産の検討・見直し、不動産運用に関するコンサルティング、
また相続申告、相続対策など、個人に対しても幅広い各種サービスを提供している。

書籍:「税務調査の良い受け方・正しい対応方法」、「会社経営者であれば知っておきたい節税のイロハ」、「創業計画書つくり方・活かし方」、ゼッタイ得する会社のつくり方はじめ方」、「相続の税金と対策」、「歯科医院経営の成功手法がわかる本」他。

クロスト税理士法人 https://crosst-tax.jp/

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