介護福祉

開業初年度に資金ショートしないために、社長が準備すべき運転資金の考え方

介護事業、障害福祉事業、訪問看護事業などを開業する際、社長がまず考えるのは、指定申請、物件、内装、車両、備品、人材採用、利用者獲得などだと思います。

もちろん、これらはすべて大切です。

しかし、開業初年度に特に注意すべきなのは、運転資金です。

介護・福祉事業では、サービスを提供してから実際に入金されるまでに時間差があります。一方で、給与、社会保険料、家賃、車両費、システム利用料、通信費、借入返済などは毎月先に出ていきます。

そのため、売上見込みはあるのに、手元資金が足りなくなることがあります。

事業は赤字だから潰れるとは限りません。黒字見込みでも、支払いに必要な現金が足りなければ資金ショートします。

開業初年度は、「利益が出るか」だけでなく、「入金まで会社が持つか」を考える必要があります。

開業資金と運転資金は別で考える

開業準備では、まず開業資金を計算することが多いです。

開業資金には、物件取得費、保証金、内装工事、車両購入、机・椅子、介護用品、パソコン、ソフトウェア、制服、ホームページ、指定申請のための費用、保険料、採用費などが含まれます。

これらは、開業するために必要な資金です。

しかし、開業資金だけでは足りません。

開業後に事業を続けるための資金、つまり運転資金が必要です。

運転資金とは、売上が安定して入金されるまでの間、毎月の支払いを続けるためのお金です。

たとえば、開業後すぐに、給与、社会保険料、家賃、水道光熱費、車両費、ガソリン代、通信費、システム利用料、消耗品、広告費、借入返済、税金などが発生します。

開業資金だけを準備し、運転資金を見込んでいない場合、開業から数か月で資金繰りが苦しくなる可能性があります。

最初の落とし穴は「入金が後になる」こと

開業初年度の資金繰りで最も大きな落とし穴は、サービス提供から入金までのタイムラグです。

介護・福祉事業では、サービスを提供し、月末で締め、翌月に請求し、審査を経て、その後に入金される流れになります。

つまり、サービスを提供した月に、すぐその売上が現金として入ってくるわけではありません。

一方で、給与や家賃は待ってくれません。開業した月から支払いが始まります。

たとえば、4月にサービスを提供しても、その売上がすぐ4月中に入金されるわけではありません。しかし、4月分の給与、家賃、通信費、車両費は支払う必要があります。

この時間差を見込んでいないと、売上は立っているのに預金が減っていく状態になります。

開業前には、「最初のまとまった入金があるまで、何か月分の支払いが必要か」を必ず確認しましょう。

人件費は売上より先に発生する

2つ目の落とし穴は、人件費です。

介護・福祉事業は、人がいなければ指定も運営もできません。管理者、介護職員、看護師、支援員、児童指導員、ドライバー、事務員など、サービス種別に応じて必要な人員を確保する必要があります。

しかも、職員は開業当日から急に集めることはできません。指定申請、研修、開業準備、営業活動のために、開業前から採用することもあります。

この場合、売上が発生する前から給与が発生します。

開業後も、利用者数がすぐに満員になるとは限りません。利用者が少ない月でも、職員の給与は支払わなければなりません。

つまり、売上よりも人件費が先に固定費化しやすいのです。

開業前には、「利用者が少ない状態でも、何か月分の給与を支払えるか」を確認しておく必要があります。

利用者数の増加は慎重に見積もる

開業時の事業計画では、利用者数が順調に増える前提で作られていることがあります。

しかし、実際には、紹介元との関係構築に時間がかかります。ケアマネジャー、相談支援専門員、病院、地域包括支援センター、ご家族に事業所を知ってもらうまでには時間が必要です。

問い合わせがあっても、すぐ契約につながるとは限りません。体調不良、入院、家庭事情、他事業所との比較、サービス開始日の調整などで、予定より遅れることもあります。

そのため、開業初年度の利用者数は、楽観的に見すぎないことが大切です。

標準ケース、慎重ケース、厳しめケースの3パターンで資金繰りを確認しましょう。

慎重ケースでは、利用者数の増加が計画の半分程度になる場合を想定します。厳しめケースでは、開業遅れ、採用遅れ、紹介遅れ、請求ミス、返戻なども見込みます。

慎重ケースでも資金が持つかどうかが、重要な判断ポイントです。

最低でも数か月分の固定費を準備する

開業初年度は、数か月分の固定費を運転資金として準備する必要があります。

固定費には、給与、社会保険料、家賃、リース料、システム利用料、保険料、通信費、水道光熱費、車両費、借入返済、最低限の広告費などが含まれます。

必要な金額は、サービス種別、職員数、物件規模、車両台数、開業地域、採用状況によって変わります。

ただし、1〜2か月分だけでは不安です。最初の入金が遅れた場合、利用者数が計画より伸びない場合、採用費や修繕費が追加で発生した場合に、すぐ資金繰りが苦しくなります。

開業前に、次の項目を確認しましょう。

・開業前に必要な支払い
・開業後に毎月発生する固定費
・最初の入金予定日
・利用者数の増加見込み
・最低限残しておくべき預金残高
・借入返済の開始時期
・社会保険料や税金の支払時期

物件契約、内装工事、車両購入、採用を決める前に、この資金繰りを確認することが重要です。

設備投資に現金を使い切らない

開業時によくある失敗が、内装や設備にお金を使いすぎることです。

もちろん、利用者様の安全、衛生、動線、指定基準、職員の働きやすさに関わる設備は必要です。必要なものを削りすぎてはいけません。

しかし、開業時から必要以上に高額な内装、過剰な備品、台数の多い車両、大きすぎるシステムを導入すると、開業後の手元資金が不足します。

開業初年度に大切なのは、完璧な見た目よりも、事業を継続できる資金余力です。

支出を判断するときは、次の視点で考えましょう。

その支出は、指定基準、安全性、サービス品質、売上獲得、業務効率に直接つながるか。開業後でも購入できるものではないか。リースや中古品で代替できないか。今支払うことで、運転資金が不足しないか。

現金をすべて開業準備に使ってしまうと、開業後の数か月を乗り切れません。

採用費と離職リスクも見込む

開業初年度は、採用が大きな資金リスクになります。

必要な人員を採用できなければ、開業が遅れる、利用者を受け入れられない、職員に負担が集中する、といった問題が起こります。

また、採用できたとしても、入職後すぐに退職する可能性もあります。その場合、再度求人広告費や紹介料が発生し、既存職員の残業も増えます。

紹介会社を利用する場合、採用時に大きな手数料が発生することもあります。新人教育にかかる時間も見込む必要があります。

事業計画では、採用が予定どおり進み、職員が全員定着する前提にしすぎないことが大切です。

運転資金には、採用予備費も含めて考えましょう。

請求ミス・返戻による入金遅れに備える

開業初年度は、請求業務に慣れていないため、請求ミスや返戻が発生しやすい時期です。

サービスを提供していても、請求が通らなければ入金は遅れます。返戻や修正が翌月以降にずれ込むと、その分だけ資金繰りが苦しくなります。

請求ミスは単なる事務ミスではなく、資金繰りに直結する問題です。

開業前から、請求ソフトの設定、利用者情報の登録、加算要件の確認、記録様式、請求チェックリスト、ダブルチェック体制を整えておきましょう。

請求業務が1人の担当者だけに依存している場合もリスクです。その人が休んだり退職したりすると、請求が止まる可能性があります。

12か月の資金繰り表を作る

開業初年度は、損益計画だけでは不十分です。

必ず12か月の資金繰り表を作成しましょう。

資金繰り表では、毎月の入金と支払いを確認します。

入金には、公的請求分、利用者負担分、自費サービス、補助金、借入金、自己資金などを入れます。

支払いには、給与、社会保険料、家賃、水道光熱費、車両費、ガソリン代、通信費、システム利用料、消耗品、広告費、採用費、借入返済、税金、保険料、設備購入、専門家報酬などを入れます。

重要なのは、年間合計ではなく、月ごとの残高です。

年間では黒字になる予定でも、特定の月に給与、社会保険料、納税、借入返済、採用費が重なれば、資金ショートする可能性があります。

開業後は、資金繰り表を毎月更新し、計画と実績のズレを確認しましょう。

資金が苦しくなる前に融資を検討する

借入をできるだけ少なくしたいと考える社長は多いと思います。

もちろん、無計画な借入は危険です。しかし、介護・福祉事業では、資金が苦しくなってから融資を申し込む方が難しくなることがあります。

資金が不足し、支払いが遅れ始めてからでは、金融機関に説明しづらくなります。開業直後で売上実績がまだ少ない場合は、なおさら慎重に見られます。

そのため、開業前または開業初期に、必要な運転資金を見積もり、余裕を持って融資を検討することが重要です。

借入は悪いものではありません。問題は、返済計画や資金繰りを作らないまま借りることです。

融資を受ける場合は、何に使うのか、何か月分の運転資金を確保するのか、いつから返済が始まるのか、返済後も資金が残るのかを確認しましょう。

開業初年度に毎月見るべき数字

開業初年度は、毎月次の数字を確認しましょう。

・預金残高
・毎月の固定費
・手元資金月数
・請求額
・入金予定額
・利用者負担分の回収状況
・売掛金・未収入金
・給与総額
・社会保険料
・借入返済額
・採用費
・返戻件数・返戻金額
・利用者数の計画と実績の差

特に重要なのは、手元資金月数です。

これは、現在の預金残高で固定費を何か月分支払えるかを見る指標です。手元資金が少ない場合、入金遅れ、採用費、車両修理、返戻などで一気に資金繰りが悪化します。

売上だけでなく、預金残高と入出金予定を毎月確認することが大切です。

まとめ

介護・障害福祉・訪問看護事業の開業初年度は、資金ショートが起きやすい時期です。

その理由は、サービス提供から入金までに時間差があること、人件費が売上より先に発生すること、利用者数の増加が計画どおりに進まないこと、開業準備に現金を使いすぎること、採用費や離職リスクがあること、請求ミスや返戻による入金遅れがあることです。

社長が準備すべきなのは、開業資金だけではありません。開業後、売上が安定して入金されるまで会社を維持するための運転資金です。

開業前に、開業資金、毎月の固定費、初回入金までの期間、慎重ケースでの利用者数、採用予備費、請求リスク、手元資金月数を確認しましょう。そして、12か月の資金繰り表を作成し、開業後も毎月更新することが重要です。

当税理士法人では、介護・障害福祉・訪問看護事業者向けに、開業前の資金計画、運転資金の試算、創業融資サポート等を支援しています。開業を成功させるためには、始める資金だけでなく、続ける資金を準備しておきましょう。

このコラムを監修した税理士

田代 健太郎

クロスト税理士法人 代表社員

近畿税理士会所属、登録番号126849号
税理士法人3社での勤務を経て、2015年に「田代健太郎税理士事務所」を設立。その後2018年に法人化し「クロスト税理士法人」に。
財務・税務調査の専門家として、決算申告業務、経営支援業務、独立・開業支援業務、医業福祉業の経営支援業務などの業務を提供。
法人に対する支援業務にとどまらず、生命保険・金融資産の検討・見直し、不動産運用に関するコンサルティング、
また相続申告、相続対策など、個人に対しても幅広い各種サービスを提供している。

書籍:「税務調査の良い受け方・正しい対応方法」、「会社経営者であれば知っておきたい節税のイロハ」、「創業計画書つくり方・活かし方」、ゼッタイ得する会社のつくり方はじめ方」、「相続の税金と対策」、「歯科医院経営の成功手法がわかる本」他。

クロスト税理士法人 https://crosst-tax.jp/

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