介護福祉
介護・障害福祉事業の「税務調査」はここが見られる!処遇改善加算の未払い、非常勤の給与、実地指導との違いとは?
介護・障害福祉事業所にとって、税務調査は不安を感じやすいテーマです。介護報酬や障害福祉サービス報酬、各種加算、利用者負担、非常勤職員、夜勤、送迎、食事提供など、日々の業務と会計処理が密接に関係しているためです。
また、税務調査と実地指導・運営指導を混同されている事業者様も少なくありません。どちらも書類を確認される点では似ていますが、目的は異なります。
税務調査は、税務署が申告内容、売上、経費、給与、源泉所得税、消費税、固定資産、役員や親族との取引などを確認するものです。一方、実地指導・運営指導は、指定権者が人員基準、運営基準、サービス記録、加算要件、請求内容などを確認するものです。
目的は違いますが、両者は無関係ではありません。介護記録、請求データ、給与台帳、会計帳簿の整合性が取れていないと、税務調査でも実地指導でも説明に困ることになります。
目次
税務調査でまず見られるのは「売上の計上漏れ」
介護・障害福祉事業では、国保連等からの入金、利用者負担、食費、家賃、日用品費、送迎費、その他実費負担など、収入の種類が複数あります。
税務調査では、これらの収入が漏れなく計上されているか、正しい時期に売上計上されているかが確認されます。
特に注意したいのが、サービス提供月、請求月、入金月がずれる点です。入金された時点だけで売上を計上していると、決算月前後の売上がずれる可能性があります。
税務調査では、国保連等の支払通知、請求ソフトのデータ、利用者請求書、通帳入金、会計帳簿を照合されることがあります。金額が一致しない場合は、その理由を説明できるようにしておく必要があります。
処遇改善加算の未払い・未払計上は注意
処遇改善加算は、職員の賃金改善を目的とした重要な加算です。税務上は、加算による収入と、職員へ支給した給与・手当・賞与などの費用が適切に処理されているかが確認されます。
税務調査は、処遇改善加算の制度要件そのものを審査する場ではありません。加算要件を満たしているか、賃金改善実績報告が適正かを確認するのは、主に指定権者の実地指導・運営指導の領域です。
ただし、税務調査でも次のような点は確認されやすいです。
処遇改善加算の収入が売上として計上されているか。職員への支給額が給与台帳や振込記録と一致しているか。未払給与や未払賞与として経費計上している場合、その支給義務や計算根拠が明確か。源泉所得税や社会保険料の処理が正しいか。役員や親族、特定の職員への支給が不自然に偏っていないか。
特に、処遇改善加算を受け取っているにもかかわらず、賃金改善として支給した記録が曖昧な場合は注意が必要です。税務上の問題だけでなく、実地指導で返還や是正を求められるリスクにもつながります。
処遇改善加算については、加算収入、賃金改善計画、給与台帳、支給明細、振込記録、配分ルールを一体で管理することが大切です。
非常勤職員の給与は重点的に確認されやすい
介護・障害福祉事業では、非常勤職員、パート職員、夜勤専従、送迎ドライバー、厨房職員、登録ヘルパーなど、さまざまな雇用形態の職員が働いています。
人件費の割合が高い業種であるため、税務調査では給与関係が重点的に見られます。
確認される主な資料は、雇用契約書、出勤簿、タイムカード、シフト表、給与台帳、賃金台帳、振込記録、源泉徴収簿、年末調整資料などです。
現金で給与を支払っている場合は、特に注意が必要です。現金支給自体が禁止されているわけではありませんが、誰に、いつ、何時間分として、いくら支払ったのかを証明できなければ、架空人件費や過大計上を疑われる可能性があります。
また、「外注費」として処理している支払いにも注意が必要です。実態として、事業所の指揮命令を受け、シフトに組み込まれ、事業所の設備を使い、他の職員と同じように働いている場合、税務上は給与と判断される可能性があります。
給与と判断されれば、源泉所得税、年末調整、法定調書、社会保険・労働保険などの処理にも影響します。
親族への給与も確認されやすい項目です。実際の勤務実態があるか、業務内容に対して金額が過大でないか、他の職員と比べて不自然ではないかを説明できるようにしておきましょう。
源泉所得税の納付漏れにも注意
職員へ給与を支払う事業所は、源泉徴収義務者として、給与から所得税等を差し引き、税務署へ納付する必要があります。
特に、非常勤職員が多い事業所では、扶養控除等申告書の提出有無、甲欄・乙欄の区分、日雇い的な勤務の取扱い、退職者の処理、年末調整の有無などでミスが起こりやすくなります。
また、税理士、司法書士、弁護士、社会保険労務士などへ報酬を支払っている場合、源泉徴収が必要となるケースがあります。
源泉所得税は、少額のミスでも複数人・複数月にわたると金額が大きくなります。納期の特例を利用している事業所でも、納付期限を過ぎると不納付加算税や延滞税の対象となる可能性があります。
給与台帳と納付書、総勘定元帳の預り金残高が一致しているか、毎月または半年ごとに確認しておくことが重要です。
消費税区分も確認される
介護・障害福祉事業では、非課税となるサービス、課税となる実費負担、対象外取引などが混在することがあります。
たとえば、介護保険サービスや障害福祉サービスに関する収入と、食費、日用品費、家賃、駐車場、物品販売、イベント費用などでは、消費税の取扱いが異なる場合があります。
税務調査では、売上の消費税区分だけでなく、経費の課税仕入れ区分も確認されます。共通対応仕入、課税対応仕入、非課税対応仕入の区分を誤ると、消費税額に影響します。
特に、デイサービス、訪問介護、有料老人ホーム、障害福祉サービス、給食事業などを複合的に運営している法人では、部門ごとの売上区分と消費税区分を整理しておく必要があります。
経費は事業との関連性を説明できるか
税務調査では、経費が事業に必要なものかどうかも確認されます。
介護・障害福祉事業で確認されやすいものとして、車両費、ガソリン代、食材費、会議費、交際費、研修費、旅費交通費、福利厚生費、修繕費、設備投資、役員関連費用などがあります。
送迎車や訪問車両については、事業利用であることを説明できる資料が必要です。車両ごとの使用状況、走行距離、訪問記録、送迎表などがあると説明しやすくなります。
食材費についても、利用者の食事、職員食、会議用、接待用などが混在している場合は区分が必要です。
また、パソコン、介護ベッド、見守り機器、リフト、車両などの購入は、金額や内容によって一括経費ではなく固定資産計上が必要になる場合があります。
役員や経営者個人の支出が会社経費に混在している場合は、役員賞与、貸付金、経費否認などの問題につながる可能性があります。
税務調査と実地指導の違い
税務調査と実地指導・運営指導は、確認する目的が異なります。
税務調査は、法人税、所得税、消費税、源泉所得税などの申告内容が正しいかを確認します。売上、経費、給与、税区分、固定資産、借入金、役員取引などが主な対象です。
一方、実地指導・運営指導は、指定基準や運営基準を満たしているかを確認します。人員配置、資格、勤務体制、サービス提供記録、個別支援計画、重要事項説明書、契約書、苦情対応、事故報告、加算要件、請求内容などが対象になります。
ただし、両者はつながっています。
たとえば、実地指導で加算の算定誤りが見つかり返還が発生すれば、会計処理や税務申告にも影響します。反対に、税務調査で給与台帳や出勤記録に不整合が見つかれば、人員配置や加算要件の確認にも影響する可能性があります。
介護記録、請求データ、給与資料、会計帳簿を別々に管理するのではなく、相互に確認できる状態にしておくことが重要です。
税務調査前に確認しておきたいチェックポイント
税務調査に備えるためには、日頃から次の点を確認しておくことが大切です。
国保連等の支払通知、利用者請求、通帳入金、会計売上が一致しているか。非常勤を含む全職員について、雇用契約書、出勤記録、給与台帳、振込記録がそろっているか。処遇改善加算の収入と賃金改善支給額の対応関係が説明できるか。源泉所得税の預り金残高と納付状況が一致しているか。消費税区分がサービス種類ごとに整理されているか。現金支払い、親族給与、役員関連経費に説明資料があるか。契約書、請求書、領収書、通帳、固定資産台帳が保存されているか。
これらは税務調査のためだけではありません。月次管理を整えることで、売上漏れ、加算漏れ、人件費の過大化、資金繰り悪化を早期に発見できます。
まとめ
介護・障害福祉事業の税務調査では、売上の計上漏れ、処遇改善加算の会計処理、非常勤職員の給与、源泉所得税、消費税区分、経費の事業関連性が見られやすいポイントです。
税務調査と実地指導・運営指導は目的が異なりますが、どちらも正確な記録が土台になります。サービス記録、請求データ、給与台帳、会計帳簿がつながっていなければ、説明が難しくなります。
日頃から月次で資料を整理し、処遇改善加算や非常勤給与、消費税区分を確認しておくことで、税務調査への対応力だけでなく、経営管理の精度も高まります。
当税理士法人では、介護・障害福祉事業者向けに、税務調査前の会計チェック、給与・源泉所得税の確認、処遇改善加算の収支管理、消費税区分の整理、月次業績管理を支援しています。税務調査に慌てない体制づくりは、安定経営の第一歩です。
