介護福祉
複合経営(デイ+訪問+有料など)の落とし穴。「部門別管理」ができていないと、1つの赤字事業が会社を潰す?
介護・福祉事業者の中には、1つの会社で複数のサービスを運営しているケースが多くあります。たとえば、デイサービス、訪問介護、有料老人ホーム、障害福祉サービス、給食・配食事業などを同じ法人内で展開している場合です。
複合経営には多くのメリットがあります。利用者を継続的に支援できること、サービス間で紹介が生まれること、地域での認知度が高まること、売上の柱を複数持てることなどです。1つの事業が一時的に伸び悩んでも、別の事業で会社全体を支えられる可能性があります。
しかし、複合経営には大きな財務リスクもあります。それが、「部門別管理ができていないために、赤字事業に気づくのが遅れる」という問題です。
会社全体では黒字に見えていても、実際には1つの事業が継続的に赤字を出し、その赤字を他の黒字事業が補っている場合があります。この状態が続くと、利益が出ているはずなのに資金繰りが苦しくなり、会社全体の経営体力が少しずつ削られていきます。
目次
会社全体の利益だけでは実態が分からない
毎月の試算表で会社全体の損益だけを確認していると、経営状況は一見問題ないように見えることがあります。売上は増えている、赤字ではない、預金残高もまだ大きく減っていない。そう感じるかもしれません。
しかし、その数字だけでは、どの事業が利益を出し、どの事業が赤字を出しているのかは分かりません。
たとえば、デイサービスは利用者が安定しており、職員配置も効率的で利益が出ているとします。一方で、訪問介護は移動時間、キャンセル、残業、シフト調整の難しさなどにより赤字になっているかもしれません。
この2つを会社全体の試算表だけで見ていると、デイサービスの利益で訪問介護の赤字が隠れてしまいます。
その結果、次のような判断が難しくなります。
- 本当に利益を出している事業はどれか
- 資金を減らしている事業はどれか
- 人件費が重くなっている部門はどこか
- 投資すべき事業はどこか
- 見直しや縮小を検討すべき事業はどこか
部門別管理がない状態では、経営判断が数字ではなく感覚に頼りがちになります。
売上は部門ごとに分けて把握する
まず必要なのは、売上をサービスごとに分けることです。
介護・福祉事業では、デイサービス、訪問介護、有料老人ホーム、障害福祉サービス、給食事業、その他事業といった形で、売上を区分して管理することが望まれます。
売上を分けることで、それぞれの事業がどれだけ収入を生み出しているかが分かります。反対に、売上が混在していると、どのサービスが採算に合っているのかを判断できません。
また、売上が正しい部門に計上されているかも重要です。たとえば、有料老人ホームの入居者が訪問介護サービスも利用している場合、それぞれの売上を明確に分ける必要があります。
部門ごとに、売上、利用者数、稼働率、請求金額を確認できる状態にしておくことが大切です。
直接費を正しく部門へ振り分ける
売上を分けた後は、費用を部門ごとに振り分けます。
まずは、その部門に直接関係する費用を整理します。たとえば、職員給与、パート賃金、社会保険料、車両費、消耗品費、食材費、専用スペースの家賃、システム利用料、外注費などです。
特に注意が必要なのが人件費です。複合経営では、1人の職員が複数のサービスに関わることがあります。管理者がデイサービスと有料老人ホームを兼務していたり、介護職員が施設内業務と訪問業務の両方を行っていたりするケースです。
このような場合、人件費を勤務時間、シフト、利用者数、サービス提供量などに応じて合理的に配分する必要があります。
人件費をすべて1つの部門に入れてしまったり、共通費として処理してしまったりすると、部門ごとの利益が歪んでしまいます。
実際には赤字の部門が黒字に見えたり、反対に利益を出している部門が赤字に見えたりする可能性があります。
共通費にも配分ルールを設ける
会社には、どの部門にも共通して関係する費用があります。たとえば、本部職員の給与、会計事務所への顧問料、事務用品費、保険料、通信費、事務所家賃、役員報酬などです。
これらは会社全体を支える費用であるため、1つの部門に直接計上するのが難しい場合があります。しかし、共通費をまったく配分しないと、各部門の利益が実際よりも良く見えてしまいます。
そこで、一定のルールを決めて共通費を配分します。
たとえば、家賃は使用面積、事務職員の人件費は売上や職員数、車両費は使用実績、システム費は利用者数やアカウント数、役員報酬は各部門への関与時間で配分する方法があります。
完璧な計算を目指す必要はありません。重要なのは、毎月同じルールで継続的に管理し、各事業の大まかな採算を把握できるようにすることです。
売上が大きい事業ほど安心とは限らない
複合経営でよくある落とし穴が、「売上が大きいから、その事業はうまくいっている」と判断してしまうことです。
売上が大きくても、人件費、残業代、車両費、設備費、事務負担が大きければ、利益はあまり残らない可能性があります。場合によっては、売上が高いにもかかわらず赤字になっていることもあります。
たとえば、訪問介護は需要があっても、移動ルートが非効率であったり、キャンセルが多かったり、短時間サービスが多く事務負担が重かったりすると、採算が悪化します。
有料老人ホームも、月額収入が安定していて一見安心に見えますが、夜勤体制、食事コスト、修繕費、水道光熱費などが高くなると、実際の利益は想定より少なくなります。
部門ごとに、売上だけでなく、営業利益、人件費率、稼働率、資金繰りへの影響、管理者の負担まで確認することが大切です。
1つの赤字事業が会社全体を弱らせる
1つの部門が赤字を出し続けている場合、その赤字は他の部門の利益や会社の預金で補填されます。
最初は大きな問題に見えないかもしれません。しかし、その状態が続くと、会社全体に影響が広がります。
本来であれば、職員の賃上げ、設備更新、借入返済、納税、採用活動、緊急時の資金確保に使えたはずの利益が、赤字部門の補填に使われてしまいます。
その結果、次のようなリスクが生じます。
- 売上が伸びているのに資金繰りが苦しい
- 黒字部門に必要な投資ができない
- 賃上げが遅れ、職員の不満が増える
- 赤字の原因が分からず対策が遅れる
- 業績が不安定になり金融機関の評価が下がる
- 赤字事業を長期間続けてしまう
最悪の場合、1つの赤字事業が会社全体の経営を大きく圧迫することになります。
月次で部門別レポートを作成する
複数事業を運営している会社では、毎月の部門別レポートを作成することをおすすめします。
複雑な資料である必要はありません。1枚の資料に、各部門の主要な数字を並べるだけでも十分に効果があります。
確認したい項目は、次のようなものです。
- 部門別売上
- 直接人件費
- その他直接経費
- 共通費配分額
- 部門別利益
- 人件費率
- 利用者数
- 稼働率
- 利用者1人当たり売上
- 残業時間
- 資金繰りへの影響
これらを毎月確認することで、変化に早く気づけます。人件費率が上がっている、稼働率が下がっている、残業時間が増えているといった兆候があれば、赤字が大きくなる前に原因を調べることができます。
数字を経営判断に活かす
部門別管理は、赤字部門を見つけるためだけのものではありません。前向きな経営判断にも活用できます。
たとえば、デイサービスが高い利益を出していて需要も安定しているなら、採用、設備更新、改修、広告などに投資する判断ができます。
訪問介護が社会的には必要でも採算が悪い場合は、訪問エリア、シフト、サービス提供時間、事務作業、職員配置を見直すことができます。
有料老人ホームが共通費を配分すると利益がほとんど残らない場合は、料金設定や運営体制を見直す必要があるかもしれません。
赤字だからといって、すぐに撤退すべきとは限りません。地域支援、利用者の継続支援、他サービスへの紹介、長期的な戦略上の意味がある事業もあります。
大切なのは、その事業が会社全体にどの程度の影響を与えているのかを理解したうえで、意図的に判断することです。
まとめ
複合経営は、介護・福祉事業者にとって大きな強みになります。複数のサービスを組み合わせることで、利用者を総合的に支援し、売上の安定化も図れます。
しかし、部門別管理ができていなければ、1つの赤字事業が見えないまま会社全体を弱らせる可能性があります。
会社全体の試算表を見るだけでは不十分です。売上を部門ごとに分け、直接費を正しく振り分け、共通費にも一定の配分ルールを設け、毎月部門別の利益を確認することが重要です。
部門別の採算を見える化することで、黒字事業を守り、赤字事業を改善し、投資判断を誤らず、健全な資金繰りを維持できます。
当税理士法人では、介護・福祉事業者向けに、部門別会計の導入、月次レポートの作成、人件費分析、資金繰り管理、複合経営の収支シミュレーションを支援しています。複数の事業を運営されている事業者様は、まず部門別の利益を確認することから始めてみてはいかがでしょうか。
