介護福祉
医療保険と介護保険、売上構成を見ていますか?利益率を左右するサービス構成の考え方
訪問看護ステーションの経営では、毎月の売上総額だけを見ていても、経営状態を正しく判断できません。
「今月は売上が増えた」
「利用者数も増えている」
「訪問件数も増えている」
一見すると順調に見えるかもしれません。しかし、売上の中身を見なければ、本当に利益が増えているのかは分かりません。
訪問看護では、利用者様の年齢、疾病、状態、要介護認定の有無、主治医の指示、サービス内容などによって、医療保険で請求するケースと介護保険で請求するケースがあります。
同じ「訪問看護」でも、医療保険と介護保険では、請求の考え方、加算、記録、関係者との連携、利用者様の状態、管理工数が変わります。
そのため、売上総額が同じステーションでも、利益率や職員負担は大きく違うことがあります。
大切なのは、「売上がいくら増えたか」だけではありません。
「どの種類の売上が増えたのか」
「その売上を作るために、どれだけの人件費と時間がかかっているのか」
「その構成は、今の職員体制で持続できるのか」
ここまで見ることが、訪問看護経営では重要です。
目次
売上総額だけでは問題が見えない
経営者様がまず確認する数字は、売上であることが多いと思います。売上は分かりやすく、成長を感じやすい数字です。
しかし、売上総額だけでは、経営上の問題を見落とすことがあります。
たとえば、訪問件数が増えて売上が伸びている場合でも、その訪問が遠方ばかりで移動時間が長ければ、職員の稼働効率は下がります。記録や連絡調整が増え、残業が増えているかもしれません。
医療依存度の高い利用者様が増えたことで売上が上がっている場合でも、オンコール対応、緊急訪問、医師との連携、ご家族対応が増えていれば、人件費や管理者負担も増えている可能性があります。
売上が増えているのに利益が残らない場合、原因は売上総額ではなく、売上構成にあるかもしれません。
医療保険と介護保険では経営上の特徴が違う
医療保険と介護保険は、どちらも訪問看護ステーションにとって重要な売上です。
ただし、経営管理の視点では、それぞれ特徴が異なります。
医療保険の訪問看護では、特定の疾病、医療依存度の高い状態、ターミナルケア、特別指示、介護保険対象外の利用者様などが関係することがあります。医師との連携、緊急性の判断、記録、状態変化への対応が重要になりやすいです。
介護保険の訪問看護では、ケアプラン、ケアマネジャーとの連携、要介護度、定期的な訪問スケジュール、サービス担当者会議などとの関係が大きくなります。定期訪問として予定を組みやすい一方で、キャンセル、訪問時間、移動効率、加算管理によって利益率が変わります。
どちらが良い、悪いという話ではありません。
医療保険だから必ず利益率が高いわけでも、介護保険だから必ず安定しているわけでもありません。それぞれの売上、業務負担、リスク、入金、職員体制への影響を分けて見ることが大切です。
1訪問当たり売上を見る
売上構成を考えるうえで、まず確認したいのが1訪問当たり売上です。
月間売上と訪問件数だけを見ていると、平均単価の変化に気づきにくくなります。
訪問件数は増えているのに、1訪問当たり売上が下がっている場合、低単価の訪問が増えている、加算が取れていない、記録不足で算定漏れがある、キャンセルや短時間訪問が増えている、といった可能性があります。
毎月、次のように分けて確認しましょう。
・医療保険の訪問件数と売上
・介護保険の訪問件数と売上
・緊急訪問の件数と売上
・リハビリ職による訪問件数と売上
・オンコール関連の訪問件数と売上
・医療依存度の高い利用者様の売上
・定期的で安定している利用者様の売上
このように分けることで、どのサービスが売上に貢献しているのか、どのサービスが時間の割に収益性が低いのかが見えやすくなります。
限界利益で考える
売上は利益ではありません。
訪問1件あたりの収益性を見るには、売上から直接かかるコストを差し引いて考える必要があります。これを限界利益の考え方で見ると分かりやすいです。
訪問1件に対して、職員の訪問時間、移動時間、ガソリン代、記録時間、医療材料、事務処理、電話対応、関係者との連絡調整などが発生します。
売上単価が高く見える訪問でも、移動が長い、記録が多い、2名対応が必要、緊急対応が多い、電話連絡が頻繁にある場合、実際の利益は小さくなることがあります。
反対に、単価は高くなくても、近隣で訪問しやすく、スケジュールが安定しており、記録や連絡調整が過度に多くない利用者様であれば、利益に貢献している場合もあります。
確認したい視点は次のとおりです。
・売上は高いが、職員負担も大きいサービスはないか
・時間の割に利益が残りにくい訪問はないか
・移動時間が利益を削っていないか
・加算漏れによって本来の収入を逃していないか
・効率よく組めば利益が残る訪問はないか
・紹介にはつながるが、短期的な利益率は低いサービスはないか
売上構成は、人件費や業務負担と一緒に見る必要があります。
サービス構成は職員体制にも影響する
医療保険と介護保険の売上構成は、職員体制にも影響します。
医療依存度の高い利用者様が増える場合、経験豊富な看護師、オンコール体制、医師との連携、緊急時対応、ケースカンファレンス、記録の精度がより重要になります。
安定した介護保険利用者様が増える場合は、訪問スケジュール、ルート管理、キャンセル管理、ケアマネジャーとの連携、定期訪問の効率化が重要になります。
売上構成が変わっているのに、職員体制や業務フローが変わっていなければ、現場に負担がかかります。
たとえば、医療依存度の高い利用者様を増やして売上が伸びたとしても、対応できる看護師が限られていれば、その職員に負担が集中します。オンコールや緊急対応が増え、離職リスクが高まる可能性もあります。
売上構成を確認するときは、「今のチームで安全に対応できる構成か」まで見ることが大切です。
加算と記録をつなげて管理する
訪問看護の利益率は、加算管理によっても変わります。
必要な体制や支援を行っているにもかかわらず、記録不足や情報共有不足によって加算が算定できていない場合、本来得られるはずの収入を逃していることになります。
加算は、請求担当者だけで完結するものではありません。
現場職員が必要な記録を残す。管理者が要件を確認する。事務担当者が請求へ反映する。この流れがつながって初めて、正しく算定できます。
毎月、加算収入、加算漏れ、返戻、修正、記録遅れを確認しましょう。
医療保険・介護保険のどちらにおいても、記録と請求がつながっていなければ、収益性は下がります。
入金タイミングと未収金も分けて見る
売上構成は、資金繰りにも影響します。
売上として計上されても、現金として入金されるまでには時間があります。請求ミスや返戻があれば、さらに入金が遅れます。利用者負担分の回収が遅れることもあります。
そのため、売掛金や未収入金も、医療保険、介護保険、利用者負担分、自費サービス、文書料などに分けて確認するとよいでしょう。
売上は増えているのに資金繰りが苦しい場合、どの区分で入金が遅れているのか、返戻が多いのか、利用者負担分の回収ができていないのかを確認する必要があります。
売上構成は、損益だけでなくキャッシュフローにも関係します。
月次で売上構成ダッシュボードを作る
訪問看護ステーションでは、毎月、売上構成を見える化しましょう。
確認したい項目は、次のとおりです。
・総売上
・医療保険売上
・介護保険売上
・医療保険と介護保険の売上比率
・区分別の訪問件数
・1訪問当たり売上
・加算収入
・返戻金額
・利用者負担分の回収率
・区分別の職員稼働時間
・移動時間
・オンコール件数
・緊急訪問件数
・人件費率
・可能であれば区分別利益
最初から完璧な資料を作る必要はありません。
まずは、医療保険と介護保険を分けるだけでも十分です。そこから、訪問件数、単価、加算、職員時間、未収金を少しずつ加えていけば、経営判断に使える資料になります。
高単価だけを追いかけない
売上構成を考えるとき、高単価の利用者様を増やした方がよいと考えることがあります。
もちろん、医療依存度の高い利用者様を受け入れられることは、ステーションの強みになります。地域からの信頼にもつながります。
しかし、高単価だからといって、必ず利益率が高いとは限りません。
緊急対応が多い、オンコール負担が大きい、記録や連絡調整に時間がかかる、経験豊富な職員しか対応できない場合、見えにくいコストが増えます。
一方で、安定した定期訪問の利用者様は、単価が高くなくても、訪問ルートを組みやすく、キャンセルが少なく、職員負担も安定しやすい場合があります。
大切なのは、高単価だけを追いかけることではありません。自社の職員体制、地域、紹介ルート、オンコール体制、資金繰りに合ったサービス構成を作ることです。
まとめ
訪問看護ステーションでは、売上総額だけを見ていても、本当の経営状態は分かりません。
医療保険と介護保険の売上構成を分けて確認することで、1訪問当たり売上、加算管理、職員負担、移動効率、請求精度、未収金、資金繰りの課題が見えやすくなります。
医療保険の売上が増えているから安心、介護保険の売上が多いから安定、という単純な判断ではなく、それぞれの収益性と業務負担を見比べることが大切です。
売上構成は、利益率を左右します。そして、職員体制、離職リスク、オンコール負担、キャッシュフローにも影響します。
売上は増えているのに利益が残らない場合は、まず売上構成を分けて確認することから始めてみましょう。
