介護福祉

事故対応で会社を潰さない!介護事故における「損害賠償保険」の選び方と示談交渉の心得

介護・障害福祉事業では、どれだけ丁寧にサービスを提供していても、事故のリスクをゼロにすることはできません。

転倒、骨折、誤嚥、服薬ミス、送迎中の事故、入浴中の事故、移乗時の事故、持ち物の紛失、火傷、褥瘡、外出支援中のトラブルなど、日常の中にさまざまなリスクがあります。

もちろん、最も大切なのは事故を防ぐことです。しかし、経営者様は「事故を起こさないための対策」だけでなく、「事故が起きたときに会社を守る対策」も整えておく必要があります。

重大事故が発生すると、利用者様やご家族への対応、職員の精神的負担、行政報告、損害賠償、風評被害、資金繰り悪化など、経営全体に影響します。保険や対応フローが不十分であれば、1件の事故が会社の存続に関わる問題になることもあります。

そのため、損害賠償保険と示談対応は、単なる事務手続きではなく、介護事業の重要なリスク管理として考える必要があります。

介護事故は「人」と「お金」の両方に影響する

介護事故は、単なる金銭問題ではありません。

事故に遭われた利用者様の身体、生活、尊厳に関わります。ご家族は不安や怒り、悲しみを抱えることがあります。事故に関わった職員も、強いショックや罪悪感を抱える場合があります。

一方で、事故は経営上のリスクでもあります。

治療費、慰謝料、損害賠償、通院交通費、謝罪対応、職員の残業、事故調査、弁護士相談、行政報告、再発防止策、評判低下など、さまざまなコストが発生します。

損害賠償請求に発展した場合、想定以上の金額になる可能性もあります。事業所側としては適切に対応したつもりでも、ご家族が納得されず、説明や補償を求められることもあります。

事故対応では、感情的に対応するのではなく、事実を整理し、記録を残し、組織として冷静に対応することが重要です。

損害賠償保険は「入っていれば安心」ではない

多くの介護事業所では、何らかの損害賠償保険に加入していると思います。しかし、保険に入っているからといって、すべての事故が補償されるわけではありません。

経営者様は、保険の内容を具体的に確認しておく必要があります。

確認すべきポイントは、対象となるサービス、対象となる場所、対象となる職員、補償限度額、免責金額、対象外となる事故、弁護士相談や弁護士費用の補償、送迎中・入浴中・食事中・服薬介助中・レクリエーション中の事故が対象になるか、などです。

たとえば、デイサービスであれば、送迎中の事故が対象になるかを確認する必要があります。訪問介護や訪問看護であれば、利用者様宅での事故や物損が対象になるかが重要です。施設系サービスであれば、食事、入浴、移乗、夜間対応、持ち物の紛失などが対象になるかを確認します。放課後等デイサービスであれば、学校送迎、外出活動、行動面の支援中の事故なども確認が必要です。

保険は、事業所が実際に行っているサービス内容に合っていなければ意味がありません。

補償限度額を確認する

損害賠償保険で特に重要なのが、補償限度額です。

補償限度額が低い場合、保険でカバーできない部分を事業所が自己負担しなければならない可能性があります。小規模な事業所にとって、大きな自己負担は資金繰りを大きく圧迫します。

必要な補償額は、サービス種別、利用者様の状態、利用者数、送迎の有無、施設規模、夜間対応の有無、医療的ケアとの関わりなどによって変わります。

入浴介助、移乗介助、食事介助、夜勤、外出支援、送迎、医療機関との連携がある事業所は、事故時の損害が大きくなる可能性があります。

保険料が安いことだけで選ぶのではなく、会社が自力で負担できないリスクをカバーできるかという視点で選ぶことが重要です。

対象外となるケースを把握する

保険では、補償される内容だけでなく、対象外となる内容も重要です。

故意による行為、犯罪行為、保険の対象外サービス、申告していない事業、一定の契約上の責任、行政処分、虐待、個人情報漏えい、サイバー事故、雇用トラブルなどは、通常の賠償責任保険だけではカバーされない場合があります。

経営者様は、「たぶん大丈夫」と考えるのではなく、保険代理店や保険会社へ具体的に確認しましょう。

たとえば、次のような質問です。

・送迎中の事故は対象になるか

・入浴介助中や移乗介助中の事故は対象か

・食事中の誤嚥事故は対象か

・利用者様の持ち物を壊した場合は対象か

・パート職員、派遣職員、ボランティアが関わった事故は対象か

・イベントや外出支援中の事故は対象か

・弁護士費用や相談費用は対象か

・示談交渉の支援はあるか

・対象外となる主なケースは何か

事故が起きてから確認するのでは遅いです。平時に確認しておくことが大切です。

事故対応マニュアルを整備する

保険に加入していても、初動対応を誤るとトラブルが大きくなります。

事業所では、事故対応マニュアルを整備しておきましょう。

マニュアルでは、事故発生直後に職員が行うこと、医療機関への連絡、管理者への報告、ご家族への連絡、市町村等への報告、事故記録の作成、保険会社への連絡、再発防止策の検討、職員フォローまでの流れを明確にします。

初動では、利用者様の安全確保、救命・応急対応、医療機関への相談、現場状況の確認、関係者への連絡、事実の記録が重要です。

記録では、事実と推測を分けます。いつ、どこで、誰が、何をしていたときに、何が起こり、利用者様の状態はどうだったのか。誰に連絡し、どのような対応をしたのかを残します。

事故直後に、「こちらに責任はありません」「全面的に賠償します」「必ず保険で払います」といった断定的な発言をするのは避けるべきです。まずは事実確認を行い、誠実に対応することが大切です。

保険会社への連絡は早めに行う

損害賠償に発展する可能性がある事故では、保険会社や保険代理店へ早めに連絡しましょう。

保険会社に相談する前に、事業所側が法的責任を認めるような発言をしたり、支払いを約束したり、補償金額の交渉を進めたりすると、後で保険対応に影響する可能性があります。

もちろん、責任を逃れるという意味ではありません。利用者様やご家族には、心配とお詫びの気持ちを伝え、必要な対応を行うべきです。

ただし、法的責任の有無や補償金額については、事実確認、保険適用の確認、必要に応じた専門家相談を行ったうえで慎重に判断する必要があります。

保険会社へは、事故の概要、発生日、場所、利用者様の状態、医療機関の受診状況、職員の対応、家族への説明状況、事故記録などを整理して伝えます。

示談交渉は慎重に行う

示談交渉は非常に慎重に進める必要があります。

事故直後は、ご家族も感情的になっていることがあります。職員も責任を感じ、経営者も早く解決したいと思うかもしれません。しかし、準備不足のまま示談を進めると、後から追加請求や認識違いが生じる可能性があります。

示談は、事実関係、医療情報、損害額、保険適用、法的助言を踏まえて行うべきです。

示談書には、支払金額、支払時期、示談の対象範囲、今後の請求の有無、秘密保持の有無などを明確に記載します。

口頭だけの約束や、記録のない見舞金の支払いは避けましょう。後から「その金額は一部にすぎない」「別の損害も請求したい」となる可能性があります。

難しい事案では、弁護士へ相談することも重要です。保険会社が一定の支援をしてくれる場合もありますが、すべての示談交渉を代行してくれるとは限りません。どこまで保険会社が対応してくれるのか、事前に確認しておきましょう。

事故に関わった職員のフォローも必要

事故対応では、利用者様やご家族への対応が最優先です。一方で、事故に関わった職員のフォローも忘れてはいけません。

職員は、強い罪悪感、不安、恐怖、自信喪失を感じることがあります。管理者が一方的に責めるだけでは、職場全体が萎縮し、事故やヒヤリハットの報告が遅れるようになる可能性があります。

もちろん、ミスを見逃すという意味ではありません。事実を確認し、手順、体制、環境、教育、記録、職員配置に問題がなかったかを冷静に検証します。

必要であれば、研修、業務フローの見直し、設備改善、記録様式の変更、職員配置の見直しを行います。

事故対応は、職員を責めるためではなく、同じ事故を繰り返さないために行うものです。

事故を経営改善につなげる

事故対応が一段落したら、必ず振り返りを行いましょう。

確認すべきポイントは、事故は予見できたのか、職員数は足りていたのか、ケアプランや個別支援計画は適切だったのか、記録は十分だったのか、設備や環境に問題はなかったのか、研修は足りていたのか、ご家族への説明は十分だったのか、行政報告は適切だったのか、保険は想定どおり機能したのか、という点です。

また、事故件数、ヒヤリハット件数、保険請求件数、損害賠償額、弁護士費用、再発防止策の実施状況などを月次または四半期で確認しましょう。

事故防止は、法令遵守だけでなく、経営管理の一部です。

まとめ

介護事故は、どれだけ注意していても起こる可能性があります。大切なのは、事故を完全にゼロにすることだけではなく、事故が起きたときに利用者様、職員、会社を守れる体制を作っておくことです。

損害賠償保険は、事業内容に合ったものを選び、補償限度額、対象外となるケース、送迎・入浴・食事・外出支援・物損・弁護士費用の有無を確認しましょう。

また、事故対応マニュアルを整備し、初動対応、家族連絡、行政報告、事故記録、保険会社への連絡、示談交渉、職員フォロー、再発防止までの流れを明確にしておくことが重要です。

示談交渉では、感情だけで判断せず、事実、医療情報、保険適用、法的助言を踏まえ、書面で慎重に進める必要があります。

当税理士法人では、介護・障害福祉事業者向けに、事故リスクに伴う財務影響の確認、保険料・補償内容の見直し、資金繰り計画、月次管理資料、事故後の経営改善支援を行っています。事故が起きる前に、保険と社内体制の両方が整っているか確認しておきましょう。

このコラムを監修した税理士

田代 健太郎

クロスト税理士法人 代表社員

近畿税理士会所属、登録番号126849号
税理士法人3社での勤務を経て、2015年に「田代健太郎税理士事務所」を設立。その後2018年に法人化し「クロスト税理士法人」に。
財務・税務調査の専門家として、決算申告業務、経営支援業務、独立・開業支援業務、医業福祉業の経営支援業務などの業務を提供。
法人に対する支援業務にとどまらず、生命保険・金融資産の検討・見直し、不動産運用に関するコンサルティング、
また相続申告、相続対策など、個人に対しても幅広い各種サービスを提供している。

書籍:「税務調査の良い受け方・正しい対応方法」、「会社経営者であれば知っておきたい節税のイロハ」、「創業計画書つくり方・活かし方」、ゼッタイ得する会社のつくり方はじめ方」、「相続の税金と対策」、「歯科医院経営の成功手法がわかる本」他。

クロスト税理士法人 https://crosst-tax.jp/

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