介護福祉

「カスタマーハラスメント(悪質クレーマー)」から職員を守る!事業者側が整備すべき防衛策と対応ガイドライン

介護・障害福祉事業では、利用者様やご家族からご意見や苦情をいただくことがあります。苦情の中には、サービス改善につながる大切な声もあります。説明不足、記録不足、職員対応、請求内容、事故対応など、事業所側が見直すべき課題が含まれていることもあります。

しかし、すべての苦情が正当なものとは限りません。

要求が過度であったり、暴言、脅迫、差別的発言、性的な言動、長時間の拘束、繰り返しの電話、職員個人への攻撃などに発展した場合、それはカスタマーハラスメントに該当する可能性があります。

介護・福祉の現場では、利用者様やご家族と職員の距離が近く、継続的な関係があるため、職員が我慢してしまいやすい傾向があります。しかし、事業者が適切に対応しなければ、職員のメンタル不調、休職、離職、サービス品質の低下につながります。

カスタマーハラスメント対策は、単なるクレーム対応ではありません。職員を守り、サービスを守り、事業を継続するための経営課題です。

苦情とカスタマーハラスメントを分けて考える

まず重要なのは、通常の苦情とカスタマーハラスメントを分けて考えることです。

苦情があること自体は悪いことではありません。利用者様やご家族には、不安や不満を伝える権利があります。安全、サービス内容、職員対応、請求、事故、連絡不足などに関するご意見には、事業所として誠実に対応する必要があります。

一方で、伝え方や要求内容が社会通念上不相当な場合、カスタマーハラスメントとして対応を検討すべきです。

たとえば、大声で怒鳴る、人格を否定する、土下座を求める、金銭補償を過度に要求する、同じ内容で何度も長時間電話する、職員個人を執拗に責める、差別的発言をする、性的な発言をする、暴力をほのめかす、事業所に居座る、勤務時間外に職員個人へ連絡する、といった行為です。

正当な意見には真摯に向き合う。一方で、職員の尊厳や安全を傷つける行為は受け入れない。この線引きを事業所内で共有しておくことが重要です。

介護現場はカスタマーハラスメントが起きやすい構造にある

介護・福祉サービスは、利用者様の生活、身体、家族関係、病気、障害、金銭、住環境など、非常に個人的な領域に関わります。

訪問系サービスでは職員がご自宅へ入ります。デイサービスや施設では、ご家族と長期的に関わります。障害福祉サービスでは、ご家族、学校、相談支援専門員、医療機関などとの連携も多くなります。

この近さは信頼関係を作るうえで大切です。しかし、距離が近いからこそ、境界線が曖昧になりやすい面もあります。

たとえば、ご家族が職員の個人携帯へ夜間に連絡する。特定の職員を指名し続ける。契約外の対応を当然のように求める。サービス改善ではなく、職員個人への攻撃になっている。このようなケースです。

職員は、「ご家族も大変だから」「自分が我慢すればよい」「報告すると関係が悪くなる」と考え、問題を抱え込みがちです。

だからこそ、管理者や経営者が、早めに相談できる職場環境を作る必要があります。

基本方針を明文化する

事業者は、カスタマーハラスメントに対する基本方針を作成しておくべきです。

その中では、利用者様やご家族からの正当なご意見には誠実に対応すること、一方で、暴言、暴力、脅迫、差別的発言、性的言動、過度な要求、職員個人への攻撃などは認めないことを明記します。

また、職員の安全を守るため、必要に応じて対応方法の制限、担当者変更、書面でのやり取り、関係機関への相談、サービス提供方法の見直しを行うことも記載しておくとよいでしょう。

この方針は、職員だけでなく、必要に応じて利用者様やご家族にも伝えます。契約時の重要事項説明書、利用案内、事業所内掲示、ホームページなどで周知する方法があります。

目的は、利用者様やご家族を威圧することではありません。お互いが安心して関わることができるルールを明確にすることです。

職員を一人で対応させない

最も避けたいのは、被害を受けた職員に対応を任せ続けることです。

介護現場では、「うまく受け流して」「丁寧に対応して」「相手を怒らせないように」と言われることがあります。もちろん、冷静で丁寧な対応は大切です。しかし、暴言や脅迫、性的言動、執拗な攻撃がある場合、職員個人の努力で解決させるべきではありません。

カスタマーハラスメントが疑われる場合は、組織として対応します。

職員がすぐに相談できる窓口を決めておきましょう。管理者は事実を確認し、リスクを判断し、必要な対応を決定します。場合によっては、一時的に担当を外す、訪問時に複数名対応にする、電話対応を管理者に集約するなどの措置が必要です。

職員が「自分が耐えるしかない」と感じる職場は、離職リスクが高まります。

記録を残す体制を作る

カスタマーハラスメント対応では、客観的な記録が重要です。

記録には、日時、場所、関係者、発言内容、行為の内容、職員の対応、同席者、サービスへの影響、管理者の判断、次回対応を残します。

電話であれば、通話日時、通話時間、内容、対応者を記録します。メールやメッセージであれば、内容を保存します。訪問先での出来事であれば、帰社後すぐに記録するようにします。

記録を残すことで、単発の出来事なのか、繰り返し発生しているのかが分かります。管理者が判断する際の根拠にもなります。後日、トラブルが大きくなった場合にも、事業所の対応を説明しやすくなります。

事前に、カスタマーハラスメント用の報告書様式を作成しておくと運用しやすくなります。

段階別の対応フローを決める

カスタマーハラスメント対応は、内容の重大性によって対応を変える必要があります。

軽度の場合は、管理者が誤解を解き、サービス範囲や連絡方法を説明し、冷静なコミュニケーションをお願いすることで改善することがあります。

繰り返し不適切な言動がある場合は、文書で注意する、今後の連絡窓口を限定する、面談には管理者が同席する、要望は書面で受け付けるなどの対応が考えられます。

暴力、脅迫、性的被害、つきまとい、危険を感じる行為がある場合は、弁護士、自治体、ケアマネジャー、相談支援専門員、警察など、関係機関への相談も検討します。職員の安全を最優先に考えるべきです。

基本的な対応フローとしては、職員からの報告、管理者による事実確認、リスク判定、緊急安全措置、対応方針の決定、記録、職員フォロー、再発防止策の検討という流れを整えます。

フローがあることで、その場の感情や担当者ごとの判断に左右されにくくなります。

ケアマネジャー・関係機関と連携する

介護・福祉サービスでは、事業所だけで対応を抱え込む必要はありません。

居宅サービスであればケアマネジャー、地域包括支援センター、自治体担当課、医療機関、成年後見人などと連携する場面があります。障害福祉サービスであれば、相談支援専門員、学校、医療機関、自治体、関係事業所との情報共有が必要になることもあります。

目的は、問題を押し付けることではありません。利用者様に必要な支援を継続しつつ、職員が安全に関われる環境を整えることです。

ご家族が強い不安やストレスを抱えている場合には、説明方法の見直しや、第三者を交えた面談が有効なこともあります。一方で、明らかに悪質な言動が続く場合には、毅然とした対応が必要です。

研修で対応力を高める

カスタマーハラスメント対策は、問題が起きてからではなく、起きる前の研修が重要です。

職員には、通常の苦情とカスタマーハラスメントの違い、怒りを向けられたときの初期対応、一人で抱え込まない判断基準、会話を終了するタイミング、報告方法、個人情報や私的連絡先を守る方法を伝えます。

ロールプレイも効果的です。長時間のクレーム電話、契約外サービスの要求、暴言、性的発言、訪問先での威圧的な態度など、実際に起こりそうな場面を想定して練習します。

また、「報告することは迷惑ではない」「早めの相談が職員と利用者双方を守る」というメッセージを繰り返し伝えることが大切です。

契約書・重要事項説明書・連絡ルールを見直す

カスタマーハラスメントを防ぐには、サービスの範囲や連絡ルールを明確にしておく必要があります。

契約書や重要事項説明書には、サービス内容、対応時間、緊急時対応、キャンセル、費用、苦情相談窓口、連絡方法、職員への不適切な言動があった場合の対応などを整理しておきましょう。

特に、職員個人への直接連絡はトラブルになりやすいです。連絡窓口は事業所の電話や公式連絡手段に統一し、個人携帯や私的SNSでのやり取りは避けるべきです。

ルールが曖昧だと、利用者様やご家族もどこまで頼んでよいのか分からなくなります。最初に境界線を明確にしておくことで、後のトラブルを防ぎやすくなります。

カスタマーハラスメントは経営にも影響する

カスタマーハラスメントは、職員個人の問題ではありません。経営にも大きな影響があります。

職員が退職すれば、採用費と教育費が発生します。休職者が出れば、他の職員の残業が増えます。管理者が長時間クレーム対応に追われれば、本来行うべき運営改善や営業活動が止まります。事業所の評判が下がれば、採用や利用者獲得にも影響します。

そのため、カスタマーハラスメントは月次管理の中でも確認すべきリスクです。

発生件数、繰り返し事案、職員のストレスによる欠勤、離職、管理者の対応時間、重大クレームの対応状況などを確認しましょう。

職員を守ることは、単なる精神論ではありません。人件費、採用費、サービス品質、経営安定を守るための重要な投資です。

まとめ

介護・障害福祉事業では、利用者様やご家族からのご意見に真摯に向き合うことが大切です。しかし、暴言、脅迫、過度な要求、差別的発言、性的言動、職員個人への攻撃まで受け入れる必要はありません。

職員を守るためには、カスタマーハラスメントに関する基本方針を作成し、苦情とハラスメントを区別し、相談窓口を整え、記録を残し、段階別の対応フローを作り、関係機関と連携し、職員研修を行うことが重要です。

また、契約書や重要事項説明書、連絡ルールを見直し、サービスの範囲と対応方法を明確にしておくことも必要です。

職員に我慢を強いる事業所は、安定したサービスを続けることができません。職員を守ることは、利用者様を守り、事業を守ることにつながります。

当税理士法人では、介護・障害福祉事業者向けに、経営管理体制の整備、人件費分析、リスク対応に伴う財務影響の確認、月次業績管理、業務改善支援を行っています。カスタマーハラスメント対策は、単なるクレーム対応ではなく、持続可能な介護経営を実現するための重要な仕組みです。

このコラムを監修した税理士

田代 健太郎

クロスト税理士法人 代表社員

近畿税理士会所属、登録番号126849号
税理士法人3社での勤務を経て、2015年に「田代健太郎税理士事務所」を設立。その後2018年に法人化し「クロスト税理士法人」に。
財務・税務調査の専門家として、決算申告業務、経営支援業務、独立・開業支援業務、医業福祉業の経営支援業務などの業務を提供。
法人に対する支援業務にとどまらず、生命保険・金融資産の検討・見直し、不動産運用に関するコンサルティング、
また相続申告、相続対策など、個人に対しても幅広い各種サービスを提供している。

書籍:「税務調査の良い受け方・正しい対応方法」、「会社経営者であれば知っておきたい節税のイロハ」、「創業計画書つくり方・活かし方」、ゼッタイ得する会社のつくり方はじめ方」、「相続の税金と対策」、「歯科医院経営の成功手法がわかる本」他。

クロスト税理士法人 https://crosst-tax.jp/

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