介護福祉
外国人人材(特定技能・技能実習)の受け入れは本当に得か?採用・研修コストと財務メリットの損益計算
介護・福祉事業所にとって、人手不足は経営上の大きな課題です。利用者からの需要があっても、職員が足りなければ、新規利用者の受け入れ、稼働率の向上、サービス品質の維持が難しくなります。
そのため、特定技能や技能実習などを活用し、外国人人材の受け入れを検討する事業所が増えています。
しかし、外国人人材の採用は、月額給与だけで判断してはいけません。「日本人職員より人件費が安いか」ではなく、「採用費、研修費、支援費、住居費、事務手続き、定着支援まで含めて、利益と資金繰りが改善するか」を確認する必要があります。
外国人人材の受け入れは、有効な人材戦略になり得ます。一方で、計画が甘いと、想定外の費用、戦力化までの時間、既存職員の負担増、コンプライアンスリスクが発生する可能性もあります。
目次
まずは採用にかかる総コストを把握する
最初に行うべきことは、採用にかかる総コストの整理です。
給与だけでなく、人材紹介料、登録支援機関への委託費、監理団体に関する費用、在留資格に関する手続き費用、書類翻訳費、渡航支援、住居準備、生活オリエンテーション、日本語学習支援などが発生する場合があります。
さらに見落としやすいのが、社内の教育コストです。管理者や先輩職員が、職場ルール、介護手順、記録方法、利用者との接し方、緊急時対応などを教える時間も、実質的には人件費です。
そのため、外部に支払う費用だけでなく、社内職員が教育に使う時間も含めて計算する必要があります。
採用時の費用と研修期間中の生産性低下を考えると、初年度は想定より利益が出にくいこともあります。月額給与だけを見て「安い」と判断するのは危険です。
給与ではなく「生産性」と比較する
外国人人材と国内人材を比較するとき、給与だけで判断すると誤った結論になる可能性があります。
介護現場での生産性は、コミュニケーション能力、記録能力、ケアプランの理解、独り立ちできる範囲、シフト対応力、利用者との関係性によって変わります。
外国人人材が価値の低い人材という意味ではありません。重要なのは、戦力化までの期間を損益計算に反映することです。
たとえば、入社後3か月は生産性50%、4~6か月は70%、1年後に90%といった形で、段階的に考えます。実際の数字は、本人の日本語能力、研修体制、担当業務、職場環境によって異なります。
最初の月から既存職員と同じ生産性を前提にすると、収支計画は楽観的になりすぎます。
財務メリットを明確にする
外国人人材の受け入れによる財務メリットは、複数あります。
まず、職員不足による機会損失の削減です。人手不足のために利用者を受け入れられない状態であれば、毎月得られるはずの売上を失っています。職員を確保することで、稼働率を上げたり、新規利用者を受け入れたりできる可能性があります。
次に、残業代の削減です。既存職員が不足分を残業で補っている場合、人件費が増えるだけでなく、疲労も蓄積します。外国人人材の受け入れにより残業が減れば、その効果を金額で把握できます。
また、派遣職員や緊急採用の費用削減も期待できます。派遣や急な採用は費用が高くなりやすく、サービス品質も安定しにくい場合があります。
さらに、既存職員の離職防止にもつながります。人手不足が続くと、経験ある職員が疲弊し、退職するリスクが高まります。退職が発生すれば、再採用と再教育に多額のコストがかかります。
外国人人材の受け入れ効果は、売上増加、残業削減、派遣費削減、採用費削減、離職率低下を合わせて確認しましょう。
支援・定着コストを見込む
外国人人材を受け入れる場合、生活面や職場面での支援体制が必要です。在留資格や制度によっては、生活支援、相談対応、日本語学習機会、オリエンテーション、定期的なフォローなどが求められます。
外部機関へ支援を委託する場合でも、事業所内で本人と現場をつなぐ担当者は必要です。
支援コストには、住居準備、家具・家電、ライフライン手続き、銀行口座や携帯電話のサポート、通訳、定期面談、メンタル面のフォロー、日本人職員への異文化理解研修などが含まれることがあります。
これらは単なる余分な費用ではありません。外国人人材が安心して働き、成長し、定着するための投資です。支援体制が弱いと、早期退職のリスクが高まり、採用にかけた費用を回収できなくなります。
教育できる職場体制か確認する
外国人人材の受け入れは、職場のルールや業務手順が整っているほど成功しやすくなります。
職員ごとに介護方法が違う、記録ルールが曖昧、口頭指示が中心、マニュアルが整備されていない。このような職場では、新しく入る外国人人材が混乱しやすく、既存職員の負担も増えます。
受け入れ前には、業務内容の明確化、標準マニュアル、記録ルール、研修チェックリスト、日本語支援、メンター制度、定期面談、相談窓口を整備しておくことが重要です。
教育体制が整っているほど、戦力化までの期間が短くなり、定着率も高まりやすくなります。
3年間の損益シミュレーションを作る
外国人人材の採用は、数か月単位ではなく、少なくとも3年間で判断することをおすすめします。
1年目は、採用費、住居準備、研修、支援費用が発生し、生産性もまだ発展途上です。そのため、収支上の効果は限定的になりやすいです。
2年目になると、本人が業務に慣れ、残業削減、稼働率向上、職員配置の安定といった効果が見えやすくなります。
3年目には、本人がより重要な役割を担えるようになり、定着していれば採用投資の回収効果が高まります。
損益シミュレーションでは、給与、賞与、社会保険料、採用費、支援機関・監理団体費用、住居支援、研修費、日本語教育費、社内教育時間、期間ごとの生産性、残業削減額、派遣費削減額、稼働率向上による売上増加、退職リスクと再採用コストを含めて計算します。
3つのケースで判断する
受け入れを決める前に、好調ケース、標準ケース、慎重ケースの3パターンを作成しましょう。
好調ケースでは、採用が順調に進み、早期に職場へ適応し、安定して勤務できる状態を想定します。
標準ケースでは、一定の研修期間を経て、徐々に生産性が上がる状態を想定します。
慎重ケースでは、入国や手続きの遅れ、研修期間の長期化、日本語面の課題、支援コストの増加、早期退職などを想定します。
好調ケースでしか採算が合わない計画であれば、リスクが高い可能性があります。慎重ケースでも資金繰りが大きく崩れないかを確認しましょう。
コンプライアンスリスクを軽視しない
外国人人材の雇用では、在留資格、労働条件、支援義務、制度ごとの手続きが関係します。管理が不十分だと、行政対応、信頼低下、今後の受け入れ制限、追加費用などにつながる可能性があります。
そのため、損益計算だけでなく、雇用契約、賃金、労働時間、住居、支援記録、報告義務、職場環境が適正に管理されているかを確認することが重要です。
一見コストが低く見える採用方法でも、コンプライアンスリスクが高ければ、本当の意味で得とはいえません。
まとめ
特定技能や技能実習などによる外国人人材の受け入れは、介護・福祉事業所にとって有効な人材戦略になり得ます。職員不足による機会損失を減らし、稼働率を高め、残業や派遣費を抑え、既存職員の負担軽減にもつながります。
しかし、必ずしも自動的に利益が出るわけではありません。採用費、研修時間、支援費、住居費、事務負担、戦力化までの期間、早期退職リスクまで含めて判断する必要があります。
外国人人材の採用は、短期的な人件費削減策ではなく、中長期の人材投資として考えるべきです。3年間の損益シミュレーションを作成し、複数のケースで資金繰りを確認し、教育・支援体制を整えることで、採用判断の精度は大きく高まります。
当税理士法人では、介護・福祉事業所向けに、外国人人材受け入れに関する採用コスト試算、人件費分析、資金繰り計画、月次業績管理、定着支援を踏まえた財務戦略の策定を支援しています。受け入れ前に、採用にかかる費用だけでなく、育成し、支援し、定着してもらうためのコストまで含めて確認することが重要です。
