介護福祉
【居宅支援】居宅介護支援事業の開業と運営ガイド
居宅介護支援事業所の開業は、介護保険制度において重要な役割を果たす事業として注目を集めています。厚生労働省が発表した『令和5年度介護事業経営実態調査結果』によれば、居宅介護支援事業の平均収支差率は4.6%とされており、適切な運営を行うことで収益性のある事業運営が可能であるといえます。
本レポートでは、開業までの手順から運営上のポイント、収益構造に至るまでを詳しく解説いたします。法人設立から指定申請、人員・設備基準の整備、収益性向上の工夫までを把握することで、継続的かつ安定的な居宅介護支援事業の運営を実現するための基礎知識を得ていただけます。
目次
居宅介護支援事業の概要と収益性
事業の位置づけと収益性
居宅介護支援事業所は、要介護者の方が自立した生活を送れるよう、ケアプランの作成や介護サービスの調整を担う重要な機関です。
収益面については、前述の厚生労働省の調査において、平均収支差率が4.6%と報告されています。この数値には、コロナ禍による支援金や物価高騰対策に関する補助金も含まれており、適正な運営体制を構築すれば、十分に収益を確保できる事業であることが分かります。
ただし、介護保険制度は3年ごとに制度改定が実施されるため、その都度、報酬単価や運営基準が見直される可能性があります。制度改定の動向を注視し、柔軟に対応できる体制を整えておくことが、安定した経営のためには欠かせません。
事業の特性と必要条件
居宅介護支援事業を始めるにあたり、まず前提となるのが法人格の保有です。個人での開業は認められておらず、株式会社、合同会社、NPO法人、社会福祉法人などの法人形態が必要です。
すでに法人をお持ちの場合でも、定款の事業目的欄に「介護保険法に基づく居宅介護支援事業」という文言が明記されていなければなりません。これが記載されていない場合には、事業目的の変更登記を行う必要があります。
開業準備:法人設立から指定申請まで
法人設立と事業目的の設定
居宅介護支援事業所を開設するには、まず法人を設立するところから始まります。法人が未設立の場合は、会社設立登記を行い、法人格を取得します。
すでに法人を設立済みであれば、事業目的に「介護保険法に基づく居宅介護支援事業」の記載があるかどうかを確認し、不足している場合には、定款変更および登記の変更手続きを行う必要があります。
法人形態については、株式会社、合同会社、NPO法人、社会福祉法人など、事業の規模や運営方針に応じて選択することが可能です。
事務所の準備と要件
居宅介護支援事業を円滑に運営するためには、基準を満たした事務所の確保が不可欠です。事務所については以下の点を満たす必要があります:
- 事務スペースのほか、利用者との相談が行える専用スペースの設置
- 事務所の賃貸契約は法人名義で行うこと(個人名義不可)
- 賃貸契約書の「使用目的」欄には「事務所」と明記されていること
- 原則として1階に所在することが望ましい(2階以上の場合、エレベーター等バリアフリー対応が必要)
なお、自宅の一部を事務所とする場合でも開設は可能ですが、厳格な条件を満たす必要があるため、事前に自治体へ相談することが推奨されます。
人員確保と資格要件
居宅介護支援事業所の運営には、法令で定められた人員の配置が必要です。中でも特に重要なのが、管理者および**介護支援専門員(ケアマネジャー)**の確保です。
これらの職員については、最終的に雇用が成立していれば問題ありませんが、指定申請時点では、少なくとも雇用契約書を締結していることが求められます。
また、介護支援専門員については、有効な資格証の写しの提出も必要となるため、早めに書類を整えておくことが重要です。人材の質はそのままサービスの質に直結するため、経験豊富で信頼できるスタッフの確保を意識して採用活動を進めることが望まれます。
事務所備品の準備
指定申請の際には、事務所が「すぐに事業を開始できる状態にある」ことを証明する必要があります。そのため、申請書類には事務所内部の写真の提出が求められます。
以下の備品は、原則としてすべて揃っていることが必要です:
- 電話機およびFAX機(複合機でも可)
- パソコンおよびプリンター
- 鍵付き書棚・キャビネット(個人情報保護の観点から必須)
- 事務スペース用の机と椅子
- 相談スペース用の机と椅子
- 必要に応じてパーティションやついたて
加えて、電話番号およびFAX番号も指定申請時に記載が必要ですので、事前に契約・取得しておく必要があります。
これらの準備が整っていない場合、申請が受理されない可能性がありますので、提出前にチェックリストなどを活用して確認を徹底することが重要です。
申請書類の準備と提出
居宅介護支援事業所を開設するには、管轄の行政機関(都道府県または市町村)へ指定申請を行う必要があります。その際には、多数の書類を適切に整備・提出することが求められます。
主な提出書類は以下の通りです:
- 指定申請書(第1号様式)
- 指定に係る記載事項一覧
- 定款の写し(原本証明付き)
- 登記簿謄本(発行日から3カ月以内)
- 従業者の勤務体制および勤務形態一覧表
- 損害賠償保険の加入証明書(写し)
特に、損害賠償保険は介護事業者専用の保険に加入する必要があり、指定通知書の交付前までに保険証券の写しを提出する必要があります。加入のタイミングを誤ると申請が遅れる可能性があるため、早めの手続きをおすすめします。
また、行政への提出は原則として予約制となっている場合が多く、1回の提出で受理されることはまれです。必要に応じて複数回の訪問を想定し、余裕をもったスケジュールで準備を進めることが重要です。
運営体制と収益構造
運営基準と人員配置
居宅介護支援事業所を運営する上では、介護保険法および各自治体の定める運営基準を遵守する必要があります。特に、人員配置に関しては次の点に注意が必要です:
- 管理者および介護支援専門員の適切な配置
- ケアマネジャー1名あたりの担当件数の上限(超過すると報酬が減算される)
- 24時間連絡体制の整備(緊急時対応の観点から必須)
これらの条件を満たすことで、利用者に安心してサービスを提供できる体制が整います。
収益構造と基本報酬
居宅介護支援事業の主な収入源は、介護保険から支払われる「居宅介護支援費」です。これは、基本報酬に各種加算・減算を適用した単位数に、地域ごとの単価を掛け合わせて算出されます。
基本報酬の一例は以下の通りです:
区分 | 要介護1~2 | 要介護3~5 |
居宅介護支援費(Ⅰ)(ⅰ) | 1,086単位 | 1,411単位 |
居宅介護支援費(Ⅰ)(ⅱ) | 544単位 | 704単位 |
居宅介護支援費(Ⅰ)(ⅲ) | 326単位 | 422単位 |
※(Ⅱ)は特定の条件に該当する事業所が対象です。
要介護度が高い利用者ほど報酬単位が高くなるため、適切なアセスメントとケアマネジメントを行い、利用者の状況に応じた支援を行うことが重要です。また、特定事業所加算などの加算取得によって、さらなる収益向上も期待できます。
経営効率化と利益向上策
居宅介護支援事業所の経営を安定させ、持続的に発展させるためには、業務の効率化と収益性の向上を両立させる取り組みが不可欠です。
ケアマネジャーの適正配置と加算取得の推進
ケアマネジャー一人あたりの担当件数は、一定の上限が設けられています。そのため、担当件数を適正範囲に保ちつつ、特定事業所加算などの加算を取得することが、効率的な経営に直結します。加算を得るには、質の高いサービス提供や体制整備が求められるため、人材育成とチームワークの向上も同時に図ることが重要です。
ICTの活用による業務の効率化
近年では、ICT(情報通信技術)を活用した業務効率化が注目されています。たとえば、以下のような取り組みが有効です:
- ケアプラン作成や記録管理のペーパーレス化
- スケジュール管理や連絡体制のデジタル化
- クラウド型ソフトによるデータ共有と業務進行の可視化
これらの手法により、事務負担を軽減し、ケアマネジャーが本来の支援業務に集中できる環境づくりが可能となります。
地域連携による信頼構築と利用者獲得
地域の医療機関や他の介護サービス事業所、行政との連携を強化することで、利用者の確保や支援体制の円滑化が期待できます。顔の見える関係を構築し、地域での信頼を得ることで、紹介件数の増加や連携強化につながります。
経験豊富な人材の確保・育成
質の高い支援を提供するためには、介護支援専門員のスキルや経験が非常に重要です。採用時には実務経験を重視するとともに、入職後の継続研修や勉強会の実施によって、専門性の向上を図ることが長期的な利益確保につながります。
助成金・融資制度の活用
居宅介護支援事業の立ち上げや運営においては、国や自治体が用意する助成金や融資制度の活用が、資金面での大きな助けとなります。
活用可能な主な助成金
以下は、代表的な助成制度の例です:
- 介護基盤人材確保助成金
新たなサービス提供に伴い人材を雇用した場合、1人あたり最大70万円まで助成されます。介護事業を始める1か月前までに申請が必要です。 - 介護未経験者等確保助成金
介護未経験者を継続的に雇用することが見込まれる場合に活用可能です。雇用から6か月経過後、所定期間内に申請します。 - 受給資格者創業支援助成金
雇用保険の受給資格者が創業し、1年以内に従業員を雇用した場合に助成される制度です。法人設立前に事前届の提出が必要です。
※これらの助成金は申請時期を逃すと受給できないケースが多いため、開業前の早い段階から制度を調査・準備しておくことが重要です。
融資制度の活用
開業資金や設備投資のための資金調達には、日本政策金融公庫や地域の金融機関による融資制度の活用が考えられます。介護事業は社会的意義が高く、融資の審査も比較的受けやすいとされています。
ただし、融資を受けるには、信頼性の高い事業計画書や返済計画の提示が必要です。さらに、自治体によっては独自の低利融資制度を設けている場合もあるため、地域の制度情報もあわせて確認しておくとよいでしょう。
まとめと今後の展望
居宅介護支援事業所の開業および運営には、法人設立から指定申請、人員確保、設備準備に至るまで、段階的かつ計画的な対応が求められます。厚生労働省の調査によると、収支差率は平均4.6%と一定の収益性が見込まれており、地域の高齢者支援に貢献しながら、事業としての成立も期待できる分野です。
事業を成功に導くためには、法令遵守はもちろんのこと、地域との連携体制の強化、質の高い人材の確保と育成、業務効率化の推進など、多角的な経営視点が必要です。また、3年ごとに見直される介護保険制度の改定にも柔軟に対応できる体制づくりが、長期的な事業継続の鍵となります。
今後さらに進展する高齢化社会において、居宅介護支援のニーズはますます高まると見込まれています。社会的意義の大きいこの分野において、利用者の生活の質の向上に真摯に取り組むと同時に、持続可能な経営を実現することが、これからの運営者に求められる役割です。
そのためにも、開業前の十分な情報収集と準備、そして開業後の継続的な改善と努力が、安定した事業運営を築く基盤となることでしょう。
さいごに
居宅介護支援事業は、ケアプランの作成や介護サービスの調整を担う重要な役割を持ち、厚生労働省の調査では平均収支差率4.6%と一定の収益性が見込まれる分野です。開業には法人設立、適切な事務所や設備の確保、管理者・ケアマネジャーの配置、指定申請書類の整備など多岐にわたる準備が求められます。運営においては、法定の人員配置や連絡体制、報酬体系の理解と加算の取得、ICT活用による業務効率化、地域連携の強化が収益性とサービス品質の向上につながります。さらに、助成金や融資制度の活用により、初期投資の負担を軽減することも可能です。高齢化が進む中、利用者の生活支援と経営の持続性を両立させることが、今後の成功の鍵となります。
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