介護福祉
介護事業の「貸倒リスク」対策。利用者・ご家族からの利用料未収金を未然に防ぐ予防策と回収フロー
介護・障害福祉事業では、売上の多くが介護保険や障害福祉サービス等の公的請求によって入金されます。一方で、利用者負担分、食費、日用品費、家賃、送迎費、キャンセル料、その他の実費負担などは、利用者様やご家族から直接回収するケースがあります。
これらの未収金は、1件あたりの金額だけを見ると大きくないように感じるかもしれません。しかし、管理が甘いまま放置すると、少しずつ積み上がり、資金繰りを圧迫します。気づいたときには数か月分が滞留し、回収が難しくなっていることもあります。
介護事業における貸倒リスクは、単なる会計処理の問題ではありません。契約、請求、家族対応、現場との情報共有、資金繰り管理が関係する経営上のリスクです。
重要なのは、未収金が大きくなる前に予防し、発生した場合には早期に対応できる回収フローを整えておくことです。
目次
利用料の未収金を「少額」と考えない
未収金は、最初は小さな金額から始まることが多いです。
1か月分の利用者負担が未払いになった。ご家族から「次回まとめて払います」と言われた。口座振替が残高不足で落ちなかった。食費や日用品費だけが残っている。このようなケースです。
最初のうちは、事業所側も強く言いにくいものです。利用者様やご家族との関係もありますし、現場職員もお金の話をしづらいと感じることがあります。その結果、未収金が翌月へ繰り越されます。
しかし、1か月が2か月になり、2か月が3か月になると、金額は大きくなり、さらに話しにくくなります。ご家族と連絡が取りづらくなることもあります。最終的には、サービス継続の可否、弁護士相談、貸倒処理を検討しなければならない場合もあります。
だからこそ、未収金は初月から管理する必要があります。早めに確認することは、冷たい対応ではありません。安定したサービス提供を続けるための通常の管理です。
予防はサービス開始前から始まる
貸倒対策で最も重要なのは、回収よりも予防です。
サービス開始前に、利用者様やご家族が負担する費用を明確に説明しましょう。利用者負担、食費、居住費、日用品費、送迎費、キャンセル料、その他の実費など、どのような費用がいつ発生するのかを具体的に伝えます。
契約書や重要事項説明書と、実際の請求内容が一致していることも重要です。事前説明が不十分な費用を後から請求すると、ご家族から疑問を持たれ、支払いが遅れる原因になります。
また、誰が支払責任を持つのかを確認しておく必要があります。介護事業では、本人、配偶者、子、成年後見人、家族代表、金銭管理をしている親族など、複数の人が関係することがあります。請求先や支払担当者が曖昧なままでは、滞納時の対応が難しくなります。
サービス開始時には、請求書の送付先、支払担当者、支払方法、口座振替情報、支払いに関する連絡先、ご家族の金銭管理状況、滞納時の対応方法を確認しておきましょう。
これらの情報は、ご家族の状況が変わった場合にも更新が必要です。
できる限り自動引落を活用する
振込や現金集金は、未収金が発生しやすい方法です。ご家族が振込を忘れる、職員が集金を忘れる、現金管理の手間が増える、といった問題が起こります。
可能であれば、口座振替やカード決済など、自動で回収できる仕組みを整えましょう。毎月の回収が安定し、職員の事務負担も軽減されます。
口座振替が不能になった場合は、すぐに確認し、支払担当者へ連絡します。大切なのはスピードです。翌月末まで気づかなければ、その時点で対応が遅れています。
入金確認は、少なくとも月1回、できれば支払期限後数営業日以内に行う体制を作りましょう。
未収金の年齢表を作成する
未収金管理では、「いつから未払いなのか」を見える化することが重要です。
利用者ごと、月ごとに、未収金を一覧にした管理表を作成します。当月分、1か月滞納、2か月滞納、3か月以上滞納といった区分で管理すると、危険度が分かりやすくなります。
未収金の総額だけを見ていても、どの利用者の、いつの請求が、どれだけ滞っているのかは分かりません。
管理表には、利用者名、請求月、請求額、入金額、未収額、滞納日数、連絡履歴、担当者、次回対応日、リスク区分を記載します。
この未収金一覧は、事務担当者だけでなく、管理者や経営者も毎月確認すべき資料です。
標準的な回収フローを決める
未収金対応を、職員個人の判断に任せてはいけません。事業所として、標準的な回収フローを決めておく必要があります。
たとえば、次のような流れです。
支払期限を過ぎたら、数営業日以内に未入金を確認する。
まずは電話、メール、書面で丁寧に確認する。
1か月未収が続いた場合は、支払担当者へ理由を確認する。
2か月未収となった場合は、管理者名で文書を送付し、分割払いなどの相談を行う。
3か月以上となった場合は、サービス継続条件、法的対応、専門家相談を検討する。
すべての連絡履歴と判断内容を記録する。
対応は丁寧であるべきです。未払いの原因は、単なる失念だけではありません。入院、死亡、ご家族の混乱、成年後見の問題、支払担当者の変更、経済的困窮など、さまざまな事情があります。
ただし、丁寧であることと、何もしないことは違います。決められたフローで早期に確認することが、事業所と利用者双方を守ります。
支払困難と単なる遅延を分けて考える
未収金の原因は一つではありません。
単なる支払忘れなのか、請求書が届いていないのか、ご家族間で支払担当が曖昧なのか、経済的に支払いが難しいのか、本人の判断能力や後見の問題があるのかによって、対応は変わります。
支払忘れであれば、再案内で解決することがあります。経済的に難しい場合は、分割払いの相談、ケアマネジャーや地域包括支援センターとの連携、サービス利用内容の見直しが必要になることもあります。
支払担当者が変わっている場合は、請求書送付先や連絡先を更新する必要があります。
原因を確認せずに督促だけを続けても、根本的な解決にはなりません。
回収対応を現場職員だけに任せない
介護職員は、利用者様やご家族と日々関わっています。その関係性は事業所にとって大切な財産です。
一方で、その関係があるからこそ、お金の話をしづらい面もあります。現場職員に未収金回収を任せすぎると、利用者対応と金銭対応が混ざり、職員の心理的負担も大きくなります。
請求・入金管理は事務担当者が行い、難しいケースは管理者や経営者が対応する体制にしましょう。現場職員は、ご家族の状況変化や支払いに関する気づきを共有する役割にとどめるのが望ましいです。
役割を分けることで、対応のばらつきが減り、職員も動きやすくなります。
会計上の処理も定期的に確認する
未収金は、会計上は売掛金や未収入金として資産に残ります。
しかし、長期間回収できない未収金をそのまま資産として残しておくと、実態よりも財務内容が良く見えてしまいます。預金は増えていないのに、帳簿上は売上や利益があるように見える状態です。
一方で、未収になったからといって、すぐに貸倒損失として処理できるわけではありません。貸倒処理には、回収不能であること、債権放棄や法的整理などの事実関係、損金経理の要否など、税務上の判断が必要です。
そのため、長期滞留している未収金は、定期的に税理士へ相談し、回収可能性や会計処理を確認しましょう。
古い未収金を何年も放置するのではなく、毎月または決算前に見直すことが大切です。
月次で確認したい未収金管理指標
貸倒リスクを防ぐには、毎月の管理指標を確認しましょう。
未収金総額、未収がある利用者数、1か月超の未収額、3か月超の未収額、口座振替不能件数、回収率、督促件数、分割払いの件数、貸倒処理検討額などです。
これらの数字を見ることで、未収金が増えている原因を早期に発見できます。
毎月未収金が増えている場合、個別の利用者の問題ではなく、事業所の仕組みに課題があるかもしれません。契約時の説明不足、請求書の分かりにくさ、入金確認の遅れ、支払方法の不便さ、担当者不明確などを見直す必要があります。
まとめ
介護事業の貸倒リスクは、小さな利用料未収金から始まることが多いです。対応が遅れると金額が積み上がり、回収が難しくなります。
未収金を防ぐには、サービス開始前の料金説明、支払担当者の確認、自動引落の活用、未収金年齢表の作成、標準的な回収フロー、連絡履歴の記録、長期滞留債権の会計確認が重要です。
未収金は、単なる事務上の困りごとではありません。資金繰り、会計、職員負担、経営の安定に関わる重要な管理項目です。
当税理士法人では、介護・障害福祉事業者向けに、未収金管理、請求フローの見直し、資金繰り計画、貸倒リスク分析、月次管理資料の作成を支援しています。安定した事業運営のためには、未収金を発生させない仕組みづくりから始めることが大切です。
